某医療機関での日常

現代医科学恋愛ファンタジーというわけのわからないジャンルの創作文置き場。 小説というカタチを成していないので読むのにいろいろと不親切。たまにR18。 初めての方は「世界観・登場人物紹介」カテゴリを一読の上でお読みください。

高校兄弟の夏休み

完が高校2年、了が高校1年の夏休み。

羊A「メエェエェエ」

了「お前じゃない!」

羊B「メエェエェエェエ」

了「お前でもない!」

羊C「メ゛--------!!!」

了「お前だコラァア!!待ちやがれコレでも食え!!」

そこは、平和な戦場だった。

【有頂天高原動物王国 正門】

一「それでは、解散☆」

一が号令をかけると、完と了は思い思いの方向へ向かう。

はにゃんにゃんハウスへ。

了はどうぶつふれあいパークへ。

両親は湖へ。

夏休みのテーマパークは混み合っていた。

それでも、中畑一家は思う存分楽しんでいた。

ここは、中畑一家が毎年訪れる定番の行楽スポットなのだ。

有頂天高原動物王国。

中畑家が住む県北部の「有頂天高原」にあり、

さまざまな動物が飼育され、園内でふれあうことができる。

犬・猫・小動物それぞれ専用の室内鑑賞ハウス、

ヤギや羊を餌付けできるどうぶつふれあいパーク、

ボートに乗り、鯉に餌付けできる人工の湖。

兄弟が小さい頃は家族全員で各コーナーを巡ったが、

兄、弟ともにお気に入りのスポットができて、

毎年決まったところに行くようになった。

あちこちふらついているのは、今となっては両親だけだった。

【有頂天高原動物王国 どうぶつふれあいパーク】

羊C「メ゛--------!!!」

餌付け用の餌はふれあいパークの外で販売されている。

そして、原則としては柵の外から餌付けすることになっている。

が、立ち入り禁止というわけではない。

餌を持たない状態で羊やヤギのいる柵の中に入り、

撫でたりさわったりするのが本来の楽しみかたである。

しかし、

了「おいお前!さっきからストレートで鳴きやがって!」

羊C「メ゛----!!」

了「これでも喰らえこの野郎!!」

羊C「もしゃもしゃ」

このように、餌を持った状態で柵の中に入る者もいる。

しかし、これには相応のリスクが伴う。

羊A「メェエェエェエェエェ!!」

羊B「メェエェエェエェエェエェ!!!!」

幼児「うええええええええん!!!」

餌欲しさに猛獣と化した草食動物が

その手にある餌めがけて群を成して突進するのだ。

かみ殺される危険はないが、幼児にとっては恐怖である。

了「くぉらァお前らぁああああ!」

幼児を追いつめている羊やヤギたちの背後の地面に、

了が大量の餌をばらまいた。

猛烈な勢いで動物たちが餌に食いついているうちに、

幼児が母親に救出される。

了「お前らの相手はこのオレだああー!」

羊「メ゛ェエェエェエェ!!!」

そこは楽園という名の戦場だったのだ。

【有頂天高原動物王国 にゃんにゃんハウス】

完「…久しぶり」

幾多の種類の猫が思うままにくつろぐその部屋で、

完は一匹のロシアンブルーに寄り添った。

手入れの行き渡った毛並みは美しく、遠目には老いを感じさせない。

だが、そのロシアンブルーは完が5歳の頃から

にゃんにゃんハウスで飼われている。

もう引退してもおかしくない年齢だった。

完のことなど特に気に留めていない様子で

うたた寝しているロシアンブルー。

完はそんな彼の背中にそっと手を触れた。

完「もう、忘れちゃったかな…」

幼い記憶。

完「君と一緒に家に帰るんだって、泣いてた僕だよ…」

5歳の完は、このロシアンブルーにこだわった。

店員が他の猫を差し出しても完は首を横に振った。

そもそも和が家で猫を飼うことに反対した。

完「年に一度は会いに来てるけど…」

来年は会えるのだろうか。

それまで、生きていてくれるのだろうか。

ロシアンブルーは、のそのそと完の膝の上に乗り、

またさきほどのようにうたた寝をし続ける。

完「ねえ…ここで待っていてくれる…?」

【有頂天高原動物王国 湖】

和「こーいこいこい、鯉さんこ~い」

一がゆるやかにボートを漕いでいる向かい側で

和は鯉に餌をやっていた。

一「さっきからたくさん寄ってきてるでしょ」

和「このまだら模様の鯉さんにあげたいのよ」

ついては来るものの、餌に食いつかない。

そんなあまのじゃくな鯉を相手に、和はプチ奮闘。

和「まだらちゃん狙い撃ちっ!」

一「鯉の餌は撃つモノじゃないでしょww」

和「だって~」

鯉を相手に童心に帰る和を、一は微笑ましく見守っていた。

【有頂天高原動物王国 にゃんにゃんハウス】

了「兄さん」

完「…………ん」

完もうたた寝していたのだった。

了「ごめん、資金が切r」

完「はい」

完が了に財布をまるごと差し出してしまった。

了「い、いいの?」

完「いいから早く行って…」

完の膝の上のロシアンブルーが、

了のヤギ臭さに目を覚ましてしまったのだ。

邪魔者を見るかのように、了をじっと見ている。

了はそっとその場をあとにして戦場へ向かう。

完とロシアンブルーは、うたた寝を続行する。

一と和はボートの上で、他愛のない会話を楽しむ。

時を忘れ、日々を忘れ、そしていずれ日常へ還る。

そんな小さな夏休みを、家族は大切にしていた。

また来年も行こうねと約束を交わすところまで、

毎年同じ。

そんな「夏休み」が来年も来ますように、と。

願う家族の帰る家は暖かかった。

この年までは。