某医療機関での日常

現代医科学恋愛ファンタジーというわけのわからないジャンルの創作文置き場。 小説というカタチを成していないので読むのにいろいろと不親切。たまにR18。 初めての方は「世界観・登場人物紹介」カテゴリを一読の上でお読みください。

中畑了の「いい声」

※男が喘いだりします。毎度すみません。

【昼休み 医療機関礼英 第3食堂】

了「(´∀`*)」

了は昼食を食べながらニヤけていた。

長瀬「ついにおかしくなったか」

青木「前からおかしいじゃん。とくに声とか声とか」

マカポー「中畑クレイジー

了「勝手にヒトをおかしくすんな」

ツッコミを入れつつ、了は笑顔を絶やさない。

青木「何かイイコトあったの?」

了「昨日は嫁が受でした(*´ェ`*)」

了と優は夫婦だが、以前に書いたとおり優が夜において非常に積極的である。

それこそどっちが男で女かわからなくなるくらいだ。

それが、昨日は珍しく優がベッドの上で受け身だったのだ。

了「受嫁かわいいよ受嫁(´∀`*)」

マカポー「爆発しろ」

長瀬「うむ。リア充爆ぜろ」

青木「ゆるんでる中畑なごむ」

青木はナポリタンを食べながらのんびりと言った。

長瀬「なごんでる場合かっ!食べ終わったら爆破だこんな色ボケ」

長瀬はカツカレーを食べながら宣戦布告する。

了「爆破はやめて!」

マカポー「知るかスットコドッコイ」

長瀬「ぼっちのオレたちに堂々と嫁自慢する中畑が全部悪い」

青木「まあ最近中畑のエロ声聴いてないしね~」

了「メシがまずくなるからやめてください」

食後のセクハラがほぼ確定してしまった。

如月「ちょっといい?」

そこへ如月が弁当箱を持ってやってきた。

如月は普段は室長室でひとり、愛妻弁当を食べているのだが…

マカポー「お疲れさまデス、oh…オイシソウでござる」

麻婆豆腐を食べていたマカポーが椅子から腰を浮かせて如月の弁当を覗き見た。

席順は

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長瀬   青木 如月

マカポー 了

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である。

長瀬「マカポーお前室長を相手にその語尾はどうなんだw」

マカポー「スミマセン」

如月「いいよいいよ、マカポー君のそのノリ好きだよ」

マカポー「告白されてシモウタ///////」

青木「告白違う」

了「本当おいしそうですね、室長のお弁当」

そう言う了は鯖の竜田揚げを食べていた。

如月「いいでしょいいでしょほーら」

如月はノリノリで弁当を見せびらかす。

彩り鮮やかで食欲をそそる弁当だ。

如月「いや僕のお弁当はどうでもいいんだった」

青木「どうでもよくないです、ナポリタンひとくちと交換してほしいくらいです」

如月「だーめwそれより龍崎くんに聞いたんだけどさ」

4人の間に緊張感が走る。

龍崎というのはこの医療機関礼英の機関長の名である。

如月「情技の看護士が最終の医師に本命チョコ渡したって本当?」

しかし、話題は職務とは全く関係なかった。

了「えーと…なぜそれを龍崎機関長が…」

如月「あれ?気づかなかった?龍崎くんバレンタインデーにここに来てたんだよ」

4人「え!?」

如月「えっ、じゃあ本当に気づいてなかったんだ…ww」

マカポー「龍崎機関長はNINJAか!?」

長瀬「普段はものすごい存在感漂わせてるのに…」

青木「機関長は何の用事でここへ?」

如月「あの人ゴシップ大好きなの知ってるでしょ?」

4人はそろって「あちゃー…」というポーズになった。

了「あの…そっとしておいてもらえないですか…?」

如月「ということは、やっぱり最終の医師って中畑兄なんだね」

了「……………そうです…」

ここまで来たら、もう隠しようがなかった。

如月「イイ話があるんだけど。…条件つきで」

如月が了に向かって器用にウインクして見せた。

そしてスーツの内ポケットからピンマイクを取り出す。

了「…?室長、私は言語の担当ではないんですが…」

如月「君の イイ声 ちょうだい☆」

了「!?」

如月「かわりに、中畑のお兄さんと柏木さんの休みを同じ日にしてあげる」

理不尽な交換条件だった。

が。

長瀬「いいですよ、どうせ今日こいつ爆破する予定だったんで」

了「ちょ、おま」

マカポー「兄の恋愛に協力するケナゲな弟泣けるナ」

青木「デートとかすればいいと思うよ」

了「オレの意志は!?」

如月「お兄さんと柏木さん、進展してほしい?」

了に選択権は無いと言えた。

【昼休み 医療機関礼英 第18談話室】

了「んっ…」

談話室は軽防音構造になっている。

実験等で大音量で音声を流したり、

時に被検者や患者が大声を出したりするからだ。

了「ぁ…ふ…っ!」

しかし、今は室長と了との「取引」に使われていた。

了は左右から青木・マカポーに羽交い締めにされ、はだけられた白衣の下のカッターシャツの上を長瀬の手指が滑っている。

ネクタイには、先ほど如月から渡された単一指向性ピンマイク。

了「う…っ!…っく、ぁあ、あっ…!!」

昼休みには限りがある。

その時間で「イイ声」を録らなければならない。

了は長瀬に目で訴えた。

(早く終わらせてくれ)

羞恥に紅潮した顔で。

長瀬(…こいつ嫁さんの前でもこんな顔してるんだろうな…)

と思いながら、長瀬は「早く終わらせよう」と試みる。

了「っあ!うっうう、んっ、うあ、あっああ…!!」

青木とマカポーが了を羽交い締めにしているのは、

了の抵抗を防ぐ他にも意味がある。

「効率」を求めるためだ。

長瀬が了に触れやすいように、了の腕を開いたまま固定する。

了「あうっ…うわっ、ああああっ、アあっ…」

青木が部屋の時計を見て長瀬に視線を送った。

もうすぐ昼休みが終わる。

昼休みが終わるときにはチャイムが鳴る。

それはこの場においては「雑音」だった。

了「も…っああ…、や…っひっぃう…んん…!!」

喉も体も使って快楽に抗がう了を、長瀬の指が容赦なく追いたてる。

了「っ、ああああ…ああああああ…………!!!」

軽い酸欠を起こして了が声を失った時、

昼休み終了のチャイムが鳴った。

マカポーが録音装置を停止させる。

青木「お疲れ」

マカポー「GOOD JOB」

長瀬「お前はいい弟だ」

了「お前らはいい馬鹿野郎どもだ……」

了は捨て台詞を吐いたが、壁に背をもたれてぐったりしていた。

だが、これで兄と鈴が進展する機会が増えるのなら安いものだ。

了がこうしたセクハラを受けるのは、すでに日常茶飯事だったのだから。

【午後 医療機関礼英 情技室長室】

マカポー「失礼シマス」

マカポーが録音機材から取り出したメモリーカードを持って室長室に入った。

如月「ありがと。どう?雑音入らなかった?」

マカポー「最後に入ったチャイムは編集でcutしまシタ」

如月「どれどれ」

如月は受け取ったメモリーカードを机上のノートPCに差し込み、ヘッドホンを装着する。

如月「……ぶww 相変わらずイイ声だねぇ中畑くんは」

マカポー「室長、ソレをいったい何にするんデスカ?」

如月「娘に聞かせるんだよ。うちの娘はBL(ボーイズラブ)CDが好きでねぇ」

マカポー「oh……」

如月「ネットに流したりはしないから安心してって言っておいて」

マカポー「了解シマシタ」

如月「そこはイエッサー!でしょ」

マカポー「Yes,sir!!」

マカポーは敬礼すると、ドアの前で

マカポー「失礼シマシタ」

と礼儀正しく言い直し、室長室を後にした。

【午後 医療機関礼英 情技室内 入院105号室】

了は担当している聴覚補助被検者の個室のドアをノックした。

少し遅れて

「どうぞ」

という女性の声がした。

了が部屋に入ると、女性はベッドに腰掛けていた。

首に装着した聴覚補助装置に手を触れながら軽く会釈する。

年齢はほぼ了と同じくらいだ。

了はベッドの側の椅子に腰掛けて、クリップボードに挟んだ紙にメモをとる準備をする。

了「重いですか?」

女性「重いと言うより…くすぐったいですね」

了「栄(えい)さんはここへ来て2週間ほど経ちましたが…どうしてもくすぐったいですか?」

栄「いえ、我慢できないほどではありません。つけているうちに気にならなくなります」

了「そうですか」

メモを取りながら、了は伊達眼鏡を中指で軽く押し上げた。

伊達眼鏡の向こう側には、本来の童顔がある。

ゆえに、了は眼鏡がないと実年齢より若く見られがちだ。

眼鏡をかけていても、兄の完と1歳しか違わないと言うと驚かれることもある。

栄はそんな了の仕草を見ていた。

栄というのは彼女の姓で、この字で「えい」と読むのは珍しい。

了「聞こえかたに違和感はありませんか?」

栄「いいえ、とてもよく聞こえます。…とくに中畑先生の声は」

了「え?」

了は首をかしげた。

栄「なんていうか…クリアです」

了「他の人の声だと雑音が入るんですか?」

栄「いえ、雑音というわけではないんですが…多分中畑先生の声が通りやすいのではないかと…」

了「自分ではいたって普通の声だと思っているんですが…」

栄「アナウンサーのような…聞きやすい声なんです」

了「そう…ですか」

了は一応それもメモに書いておいた。

了(特にイケボとか言われたことないんだけどな…)

イケボというのは「イケてるボイス(声)」の略である。

了「貸し出した映画やCDは問題なく視聴できますか?」

栄「はい」

了「栄さんはまだ補助装置をつけて間もないので、あまり刺激の強いものは貸し出しできませんが、慣れてきたら好みのジャンルの物を楽しんでいただいて結構です」

栄「どんな物があるんですか?」

了「わりとなんでもありますよ。洋画に邦画にアニメにポルノ…」

栄「え!?ポ……」

了「そういった需要もありますから」

了はいたって事務的に応じる。

了「CDにしても、クラシックもジャズもロックも、アニメのドラマCDもあればBL(ボーイズラブ)モノまで…」

栄「ええ!?」

栄はさっきから驚きっぱなしである。

了「なので早く装置に慣れましょう。脳への負担を考慮して、今は起動時間を一日4時間程度に抑えていますが、問題がなければだんだん起動時間をのばしていきます。そのうち起床から消灯までずっと装置を起動していられるようになりますよ」

栄「早くそうなりたいです…」

中途聴覚障害者の多くが、最初の「一日4時間まで」という起動時間制限に不満を訴える。

了「聴覚補助装置を起動している間、自覚症状は現れないものの脳にはけっこうな負担がかかります。装置を起動した状態で映画などを見た後、急に眠くなったりしませんか?」

栄「はい…夜でもないのにものすごく眠くて…眠ってしまうんです」

了「失われた聴覚を脳の一部に代替させている上に、視覚での映像処理も脳で同時に行っているので、脳が疲れてしまうんです」

栄「それも…いつか慣れるんでしょうか…」

栄はさきほどから難しい話を聞かされて、不安げな表情を浮かべた。

了はそんな栄に対して、穏やかに応える。

了「大丈夫です。脳だって筋肉と同じで、鍛えれば強くなりますよ。ただ使っている技術が特殊なので、脳が慣れるのに時間がかかるだけです」

栄「この装置をつけて、外で日常生活を送っている人っているんですか…?」

了「いますよ」

栄「え?」

了「そういう人たちはここでの生活を卒業して、装置もこれよりもずっと小型のワイヤレス仕様の物を自己管理で使っています」

栄が使っている装置はワイヤレスではない。

部屋にあるPCに接続されている。

ゆえに栄はこの部屋を出る時は聴覚を失う。

栄「私もいつか………」

了「時間はかかるかもしれませんが、きっとそういう日がきます。それまで、ここでの生活をできるだけ楽しんでください」

栄「楽しんで…?」

了「ポコポコ動画の「白衣の馬鹿」とかオススメですよ」

了は笑顔でちゃっかり同僚の動画を宣伝した。

そして、椅子から立ち上がると

了「では、無理のないようにお過ごしください」

と言って、部屋を後にした。

その後、栄がポコポコ動画で「白衣の馬鹿」を検索し、腹筋が筋肉痛を起こしたのは言うまでもない。

【夜 某県郊外のマンション 803号室 ダイニング】

了「ねえ嫁」

優「なに?ちょっと味薄すぎたかな?」

今日の夕食は鶏肉ときのこ類の炒め物だった。

了「いや、ちょうどよくておいしいけどさ」

優「よかった」

了(あれ?何言おうとしたんだっけ)

了は夕食を食べながら言いかけたことを思いだそうとしていた。

優「そうそう、今度千尋ちゃんとデートしてくるね」

了「ぶっ!?」

優「だってそういう約束だったでしょ?」

千尋が鈴のバレンタインデーに全面協力するかわりに、

優を一日占有する。

これもまた理不尽極まりない交換条件だったが、了はそれを飲んだ。

了は兄の恋愛を成就させるためなら手段を選ばない。

了「デートって何すんだよ…」

優「ふたりで…多分カラオケ」

了「ならよし。…あ、そうだ」

優「なに?」

了「オレの声って聴きやすい?」

了は「カラオケ」の単語で言いかけたことを思い出した。

優「んー…特別通るってわけでもないし、かといってこもってるわけでもないし…普通だと思うけど?」

了「だよなあ」

優「何か言われたの?」

了「新しく入ってきた聴覚(被検者)の人に、オレの声が特によく聞こえるって言われて」

優「へー…なんだろうねそれ。了の声は装置を通すとクリアになるの?」

了「なんだそりゃ…」

優「まあ私も自分で言っててなんぞ?って思ったけど」

優が夕食をひとくち食べてから、ニヤリと笑った。

優「じゃあその人に了のイイ声聴かせてあげたら?」

了「んぐっ!?」

了は食事を吹き出しそうになり、手でクチをおさえた。

了「いきなり何を言い出しますか奥さん」

優「イイ実験になるんじゃないの?」

了「どこの情技でそんな実験やるんだよ」

優「了がいる情技」

優はブレない。

優「少なくとも我が輩の耳には極上の響きである」

しかし、優のキャラはブレる。

了「メシの味がわかんなくなるからこの話ヤメよう…」

優「じゃあ食べ終わってお風呂はいったら了食べよう」

了「昨日食ったろ!!」

優「あれは私が食べ られた の。今日は喰っちゃる」

了「だーめ。明日仕事なの」

優「ちっ」

優の性欲は旺盛だが、あくまでも了の仕事が優先だ。

翌日の仕事に差し障るような行為はしない。

それは優の思いやりであり、愛情だった。

そんな優に目線を合わせ、

了「…次の日が休みだったら…スキにしていいから」

と言った了の顔は淡く火照っていた。

優「そんな顔でそんなこと言われたら今すぐ押し倒したいでござる」

了「だめだっつーの!」