某医療機関での日常

現代医科学恋愛ファンタジーというわけのわからないジャンルの創作文置き場。 小説というカタチを成していないので読むのにいろいろと不親切。たまにR18。 初めての方は「世界観・登場人物紹介」カテゴリを一読の上でお読みください。

第3食堂テレビジャック事件

【第3食堂】

了「食堂のテレビってつまんないよな」

了たちが情技に就職して間もない頃の昼休み。

コトの始まりは、そのひとことだった。

長瀬「言えてる。2台あるのに両方同じニュースってどうよ」

青木「せめて片方は『吹いていいとも』とかさ」

マカポー「らっきー☆すたじお流せ」

医療機関の第3食堂には、大型液晶テレビが2台あるが

昼休みにはどちらも同じ、真面目なニュースを流している。

了「さすがにアニメは無理かもしれないけど、両方同じってのがな…」

青木「ニュース見たい人もいるかもしれないけど」

長瀬「でも両方で流す必要ないよな」

マカポー「ニュースツマンネ」

了は箸を止めて、本気で考え出した。

了「……なんとかなんないかな、マジで」

長瀬「お?ヤんのか?…でもどうすれば…」

青木「ここのテレビってどこが制御してるんだろ」

マカポー「I don't know」

了「うーん…………」

鈴木「やあ」

了「あ、鈴木さん、お疲れ様です」

鈴木は、一応了たちの同期だが4人より年齢が上。

了たちとは違い、社会人学生を経た大学院卒の精神科医

普段は最初に情技に就職した年度の同期と昼食をともにしているが…

鈴木「何の話してたの?」

了「えーっと…ここのテレビってなんで両方ニュースなんですか?」

鈴木「特に深い意味はないと思うよ」

青木「どこが制御してるか知りませんか?」

鈴木「情技のはじっこの第…なんだっけな、制御室だよ」

長瀬「情技にあったんですか!」

マカポー「OH!!」

鈴木「そこで多分テレビのチャンネルも、冷暖房もいろいろと」

了「じゃあ、そこの人に言えば変えてもらえるんですかね…?」

鈴木「いや…無理なんじゃないかな。そもそもそんなこと可能ならとっくにそうなってると思うよ」

長瀬「チャンネルって誰が決めてるんですか?」

鈴木「一応、責任者は機関長」

青木「うわ……」

了「…顔も見たことないんですけど……」

マカポー「オナジク」

鈴木「まあ、機関長もどこの食堂で何が流れてるかなんていちいちチェックしてないと思うけどね。ただ無難なチャンネル流しとけーってだけで」

長瀬「じゃあ、ひょっとして一時的に違うモノが流れても…」

鈴木「え、何?ひょっとして何かやるの?(゚∀゚)」

了「毎日片方を違うチャンネルにしろとは言いませんが、一日くらいそういう日があってもいいんじゃないか…と」

鈴木「面白そうだね(゚∀゚)何流すの?」

青木「鈴木さん、ノッてきましたね」

マカポー「ミスター鈴木、この男ノリノリである

長瀬「え…いや…何を流すかまでは決めてないんですが、せめてニュース番組よりは面白いモノがいいかと…」

鈴木「個人的には宇宙戦艦ハヤトとかがいいけど、せっかく一日だけやらかすならもっと誰でも楽しめる物がいいよね」

了「あの、鈴木さん…ひょっとしてこれ、実行が前提の話になってませんか?」

鈴木「え、やらないの?(´・ω・`)」

了「できればやらかしたいですがw」

青木「やりたいやりたいwww」

長瀬「食堂カオスにしてやろうぜww」

マカポー「第3食堂テレビジャック事件勃発」

了「まだ勃発してねぇよwwww」

鈴木「勃発させようよww」

青木「何流しましょうかね…年齢制限にひっかからなくて、誰でも楽しめて…」

了「…どうせなら吹いたら負け的な爆笑動画詰め合わせて1時間…」

青木・長瀬・マカポー「それだ!!!!」

鈴木「ちょwwwそれは本当に食堂がカオスというかパニックに陥りそうで…楽しみだね(゚∀゚)」

長瀬「鈴木さんもたいがい自重しませんよねww」

青木「でもそんな爆笑動画、制御室の人に何て言って流してもらえば…」

鈴木「そうだなあ…DVDにでもまとめて、『技術研究開発の資料映像です』とでも言えば、普通に流してくれるんじゃない?」

了「途中で止められませんかね…」

マカポー「制御室でTVの映像は映っているンデスカ?」

鈴木「そこまでは知らないなあ…制御室、入ったことないし」

青木「ダメ元でやってみようよ」

長瀬「そうだな、やらなきゃ始まらない」

マカポー「少年よ大志を抱け」

了「よし…まずは爆笑動画を一時間分かき集めるか…」

鈴木「やる時は僕に日にち教えてよね。その日は絶対に休み入れないからw」

こうして『第3食堂テレビジャック』の計画が始まった。

週末、了、青木、長瀬、マカポーは某動画共有サイト等から

爆笑動画をかき集め、重複を避けて編集し、一枚のDVDにまとめた。

【翌週 昼休み後半 情技室内 第3制御室前】

了「で……これ、誰が制御室の人に渡すの…?」

青木・長瀬・マカポー「中畑」

了「全員一致ですか」

青木「言いだしっぺ乙」

了「緊張するなあ……」

了は制御室のドアをノックした。

ほどなくしてドアが開き、技師が顔を出す。

技師「はい、何か?」

了「あの…これ、技術開発研究の資料映像なんですけど、明日の昼休みに片方のテレビに流してもらえますか」

技師「わかりました。預かりますね」

技師はDVDを受け取り、ドアを閉めた。

了「はあ…緊張した…」

青木「思ったんだけどさ…あれ、技師の人が先に見ちゃったりしないかな…?」

長瀬「ウソだけど資料映像だぞ?見ないだろ」

マカポー「制御室のヤツも検査技師か?」

了「それはないと思うけど」

長瀬「まあ、やることはやったんだ。あとは明日を待つのみ」

鈴木「やあ」

了「絶妙なタイミングで通りかかりますね」

鈴木「いや、君たちが制御室前に集まってたから来たんだよ。…やるんだね?ついに」

青木「明日実行の予定です…技師の人がちゃんとやってくれれば」

鈴木「で、制御室の中ってどうなってた?テレビの画面とかあったの?」

了「あ……すいません、そこまで見てませんでした……」

長瀬「ドアもそんなに大きく開けてくれなかったし…」

青木「中の様子まではちょっと…」

マカポー「ソーリー」

鈴木「いや、いいよ。入ったことないから気になっただけで。そうか明日か…楽しみだね、わくわくしてきたよ(゚∀゚)他のみんなには…どうしようかな、やっぱり内緒にしておいたほうがいいの?」

了「そう…ですね、鈴木さんの同期の人たちまでなら…」

長瀬「ですね、じゃないと鈴木さんの白衣汚れるかもしれないんでw」

青木「鈴木さんたちまで腹筋崩壊したら大変なんでw」

マカポー「情技室内腹筋爆破実験w」

鈴木「いやあ楽しみだなあww同期に言っとくよwwww」

了・青木・長瀬・マカポー「よろしくお願いします」

【翌日 昼休み 第3食堂】

第3食堂は早くもパニックに陥っていた。

味噌汁を噴出して対面に座っている者の顔面に噴射する者、

飲みかけの茶を気管につまらせて派手にむせる者、

笑った拍子に運んでいた食事の載ったトレイを取り落とす者……

了「うわwwwwww」

長瀬「大惨事wwwwwwwwwww」

青木「ちょwwwwwひどすぎワロタwwwwww」

マカポー「第3食堂が焦土と化したwwwwww」

了たちは、その日はあえて液晶テレビの死角に席を取っていた。

鈴木たちはいつもと同じ席に座っていたが、

わかってはいたものの吹き出すのをこらえるのに大変そうだ。

了たちと同じく液晶テレビの死角に座っていた者たちも、

何事かと言わんばかりに席を移動し、大惨事を引き起こしていた。

了「こ…これはひどい…wwww」

青木「清掃担当の人大変そうwwww」

長瀬「土下座するしかないwwww」

マカポー「スライディング土下座wwwww」

大惨事は、昼休みまるまる一時間続いた。

その頃、情技の室長が第3制御室を訪れていた……

【昼休み直後 情技室長室】

如月「随分と派手にやらかしてくれたんじゃない?」

了・青木・長瀬・マカポーの4人は、室長室に呼び出されていた。

如月「資料映像だって偽って渡したんだって?」

了「はい……」

4人が4人とも、ガチガチに緊張していた。

4人とも室長室に入るのはこれが初めてだった。

しかも、問題を起こして呼び出されて、である。

如月「これ、こっちで預かるから」

如月は、例のDVDを4人にちらつかせ、机の上に置いた。

如月「どうせ元のデータは自宅のPCにでも入ってるんでしょ?」

4人「はい」

如月「じゃあもうこれは没収でいいよね」

4人「はい……」

如月「妻と二人で鑑賞することにするよ」

4人「!?」

4人は、いったいどんな処分を言い渡されるのかとビクビクしていた。

しかし、室長は至って穏やかに話を続ける。

如月「で、次はいつやるの?」

了「え…」

青木「え…」

長瀬「え…」

マカポー「え…」

如月「次はいつやるのって訊いてんの。君たち言語中枢に異常ないよね?」

了「いえ…あの………未定というか、するつもりがないというか…」

如月「なんだ、やらないの?」

4人「えっ」

如月「食堂テレビジャックなんて、イカしたことするじゃない。しかも一時間まるまる爆笑動画。あんな楽しい大惨事はそうそうないね。個人的には拍手喝采だよ」

4人は唖然として、言葉も出ない。

如月「…まあ、清掃担当の人には僕から謝っておくけどね」

了「い、いえ、私が」

長瀬「私も」

青木「私も」

マカポー「私も」

如月「いいよいいよ、君たちが主犯って知れたら、清掃担当の人に睨まれるでしょ?でも僕が主犯っていうコトにすれば、波風立たないから」

了「そ…そうなんですか…?」

如月「食堂のテレビがつまらないってのは前々から言われてるし、実際僕もつまらないと思ってたからね。僕が室長権限でイタズラしたってことにしても全く問題ないし、構わないよ」

青木「室長が清掃担当の人に睨まれませんか…?」

如月「もともとあの人たちは僕に対しては腰が低いからね。ごめんね☆って言えばなんとかなるんじゃない?それに、食堂がどんなに汚れようと、それをキレイにするのが彼らの当然の仕事なんだから」

長瀬「それを言っては身もフタもない気がするんですが…」

如月「でも白衣が汚れた人は大変だったね。交換しに行ってたよw」

マカポー「ああ……その人たちにも謝罪を……」

如月「別にいいんじゃない?そのくらい。爆笑動画流してなくたって、食事噴きこぼして相手の白衣汚すなんて別に珍しいことでもないし」

了「確かに私たちもたまにありますが…」

如月「そういうことだから、もう持ち場に戻っていいよ。…今後テレビジャックの予定がないってのはちょっと残念だけど。もしまたやる気になったら、今度は事前に僕にも言ってよね。第3食堂の壊れっぷりは見ててすっごく楽しかったからw」

4人「は…はい…失礼します……」

4人は礼をして、室長室を退室した。

4人「室長って…………」

室長室の前、極度の緊張から解き放たれた4人は

安堵と脱力感、そして何やら複雑な感情が混ざったため息をついていた。

第3食堂テレビジャック事件は、その後情技での伝説となる。