某医療機関での日常

現代医科学恋愛ファンタジーというわけのわからないジャンルの創作文置き場。 小説というカタチを成していないので読むのにいろいろと不親切。たまにR18。 初めての方は「世界観・登場人物紹介」カテゴリを一読の上でお読みください。

中畑完と愉快な仲間たち

【昼休み 第1食堂】

二宮「ちぃーっすおつかれー」

柏崎「おー」

矢野「おつかれさーん」

完「いただきます」

完・柏崎・二宮・矢野の4人は最終で最も若い4人組である。

手術等の例外がない場合は、こうして揃って昼食を取っている。

席順は

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二宮 柏崎

矢野 完

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である。

矢野「全員揃ったの何日ぶり?」

二宮「この前は中畑が第3に浮気しやがったし」

柏崎「中畑ブラコンまじでブラコン」

完「二回も言わなくていいよ」

食堂のメニューは、第1も第3も変わらない。

食堂の前にメニューが貼り出されている。

和洋中各2種類に加え、麺類、カレー。

麺類はラーメンやパスタ、うどん、そばのどれか。

カレーが常駐しているのは、食欲のない職員のためらしい。

完「第3に浮気で思い出したけど」

二宮「何を?」

完「これからは向こうで食べることが多くなると思うから」

矢野「なんで」

完「情技に友達ができたから」

3人「ジ ョ ー ギ に ト モ ダ チ だぁ?」

3人が3人とも同じリアクションである。

柏崎「おいなんだよ情技に友達って」

完「なんだよって、情技の友達だよ」

二宮「オレ達を差し置いて情技に友達って何だよ」

矢野「さぞかし品性お上品なお坊ちゃんなんだろうな?」

完「女性だよ」

3人の顔色が変わった。

柏崎「おい、きいたか」

二宮「中畑が情技に女作りやがった」

矢野「しかも情技の女だから情婦だ」

柏崎「うまいこと言ってる場合かwww」

完が箸を止めて、不快な表情をした。

完「だからどうしてそうなるの?友達だって言ったでしょ?」

柏崎「女の友達だ。つまり、ガールフレンドだ!」

完「だから何?」

二宮「つーかなんでいきなり最終の看護士すっとばして情技?」

矢野「うん。すっごい疑問」

完「ええと…」

完は最終に勤務している看護士を、友人及び恋人の範疇に入れていない。

純然たる「仕事仲間」としか認識していないのだ。

完「…なんだかよくわからないけど、友達になってくれって言われたから」

完は、ありのままをクチにした。

柏崎「おいちょっとお前それでOKしたのか?」

完「したけど」

矢野「なんで!?」

完「いいでしょ別に」

二宮「かわいいの?胸デカイの?」

完「ごく普通の容姿で、ごく普通の体型だったよ」

柏崎「一体どこが気に入ったんだ!?」

完「どこがって…じゃあみんなは僕のどこが気に入ったの?」

完は最終医研に入所したての頃は、単独で行動していた。

昼休みに同期と交流する暇もなく、資料室にこもっていた。

資料室で、過去の視機能疾患・障害に関する資料を読みあさり、

その頃情技で視機能補助を受けていた父が完治する術を

必死で探して過ごしていたのである。

おかげでその頃の完には「資料室の番人」というあだ名がついていた。

父の一が死去し、その後茫然自失の状態で昼食をとっていたところに

柏崎が声をかけたのがきっかけで、今のような昼食の形態になった。

柏崎「無駄に上品」

二宮「潔癖」

矢野「天然」

完「矢野アウト。認めないからそれ」

柏崎「だからその反応が天然なんだって」

二宮「絶対認めないもんな」

矢野「どうせ情技で天然ぶちかまして大惨事起こしたんだろ?」

完「よくわからないけどみんな楽しそうだったよ…あ、そうだ」

柏崎「あ?」

完「僕と弟ってどっちが攻で受なの?」

3人が吹き出して食事続行不可能になった。

柏崎「おwwwwまwwwwなんだそれwwwwww」

完「だってそれで呼び出されたんだもの」

二宮「情技パねぇwwwwwwww」

矢野「ひっでぇwwwwwwww」

完「ひどいの?え、何なの?将棋か何か?」

3人は完全に箸を持てない状態になってしまった。

完「どうしたの?みんな大丈夫?」

二宮「そりゃこっちのセリフだwww」

矢野「お前情技に弟いるのになんでそんなことも知らないんだよwww」

柏崎「情技で受攻って言われたらオレだって意味わかるぞwwwww」

完「じゃあ僕にもわかるように説明してよ」

二宮「えっ、ちょ、そんな大役オレ無理」

矢野「パス」

柏崎「オレか!?」

完「じゃあ柏崎、説明して」

完はまるで『ちょっとそこのファイル取って』とでも言うように言う。

柏崎「い、いや弟にきけよ…」

完「どうして?嫌だよ面倒くさい。意味がわかってるならいいでしょ?」

二宮「中畑、オレ達ふたりがパスした理由もわからないだろ」

完「意味がわからないから…じゃないよね?どうして?」

矢野「お前が一番嫌がりそうな話になるからだよ」

完「…?」

完は箸を持ったまま首をかしげた。

その間に柏崎は咳払いをしていた。

柏崎「あのな、中畑」

完「なに?」

柏崎「男同士のカップルにおいて、男役を攻、女役を受と言うんだそうだ」

完「ああ、そうなの」

柏崎「で、お前と弟ではどっちが男役で女役かという話だ」

完「え?えーと…弟は結婚してるし、僕はホモじゃないよ」

柏崎「その答えじゃ情技の連中は納得しないだろうな…」

矢野「しないな…」

二宮「しない」

完の言ったことは事実である。

しかし、それが通用しないのが情技という部署だ。

完「じゃあなんて言えば納得してもらえるの?」

二宮「と思った弟がお前を呼んだんだろうよ、第3食堂に」

矢野「そういうことか」

柏崎「弟も弟で大変だな」

完「うーん……草餅さんになんて説明すればいいんだろう…」

草餅。

3人は耳を疑った。

柏崎「すげえ名前だなおい、くさもち?」

完「ああ、僕がつけたニックネームだよ。本名が柏崎と紛らわしくて」

二宮「だからってなんで草餅…」

完「最初は柏餅だったんだけどそれでも紛らわしいし」

矢野「それで草餅か…もうちょっとなんとかならなかったのか?」

完「弟が桜餅とか言ってたけど、本人が草餅でいいって」

柏崎「わけわかんねえな情技は相変わらず…」

完「本当に訳がわからないよ。草餅さん以外は名札はずしてたし」

二宮「…待った。一体何人で食った?」

完「僕と弟と、女性看護士4人のうちのひとりが草餅さんで、6人」

柏崎「完全に合コンじゃねえかよ!!」

完「ゴーコンって何?」

3人は頭を抱えた。

昼休みの時間には限りがあるのだ。

矢野「お前さあ、大学時代何やってたんだよ」

完「講義受けて、実習して、テスト受けて」

二宮「勉強以外に何やってたんだよ」

完「教授と食事に行ったりしてたよ」

3人「はあ!?」

完「だって教授が誘うんだもの。なんだか知らないけど」

矢野「女?」

完「全員男だよ。なんだか知らないけどご馳走されてたよ」

二宮「全員って、何人にご馳走されたんだよ…」

完「忘れたよそんなの。名刺はしまってあるけど」

柏崎「何なんだよそのVIP待遇は…」

矢野「一応訊くけど、食った後はどうしてたんだ?」

完「食べたら寮まで送ってくれたけど」

二宮「別にホモってわけじゃないんだな…一体何があった…」

完「さあ?成績が良かったことくらいしか心当たりないね」

柏崎「医学部って成績いいと教授に奢られるのか…?」

矢野「聞いた事ねえよそんなの」

二宮「オレも。大体医大の教授なんてクソ忙しいだろうに」

完「だから知らないってば理由なんて。それよりゴーコンって何?」

3人「あああ……」

3人の絶望しきった表情を見て、完も困り顔になった。

完「わかったよ、弟に訊くよ…」

柏崎「いや、別に合コン自体は下品な話じゃないんだ…」

二宮「なんつーかほらアレだ、出会いの場っつーか…」

完「どういう字書くの?」

矢野「合同コンパの略で合コンだ」

完「何するの?」

柏崎「お互いに会費を出し合って、男女入り混じって飲み食いするんだよ」

完「確かに男女入り混じって食事したけど、それが合コンでどうしたの?」

二宮「中畑…お前さっき、草餅さん以外は名札はずしてたって言ったよな?」

完「言ったけど」

矢野「その草餅さんのためにセッティングされた合コンだったんだよ」

完「……………?」

柏崎「だから…草餅さんは最初から中畑とお近づきになりたくてだな…」

完「友達になったよ」

二宮「お…お…お友達から始めましょうってこったよ!」

二宮が軽く手のひらでテーブルを叩きながら言った。

二宮「なんッでオレが中畑にこんなこと言わなきゃなんないの!?」

矢野「二宮落ち着けwwこっちまで照れくさいwww」

柏崎「単なる説明だからwwセーフセーフwwww」

完が昼食を咀嚼しながら、3人の話も咀嚼していた。

そして食事を飲み込むと、

完「柏崎」

と呼びかけた。

柏崎「あ?」

完「お友達から始めようか」

柏崎「ぶほっ!?」

完「二宮も、矢野も、お友達から始めよう」

二宮「んぐ!?」

矢野「げっほげほげほっ!?」

完「良ければいずれ親友になりましょう」

柏崎「おい!中畑!」

完「なに、みんなどうしたの?」

柏崎「お前わざとやってないか!?なあ、わざとなんだろ!?」

二宮「ていうか、オレ達今まで中畑の何だったの!?」

完「同期の同僚」

矢野「それ以外に無いの!?」

完「今日からは友達」

柏崎「今日からはって……」

完「で、明日はこの前友達になった草餅さんに会いに行こうと思って」

二宮「浮気だ!」

矢野「裏切りだ!」

柏崎「人でなし!!」

3人は散々に完を罵った。

柏崎「いいよもう。ヤケ食いしてやる」

二宮「どうせオレ達は今まで単なる同期の同僚だったんだ」

矢野「中畑なんか情技の男に掘られちまえ」

柏崎「そうだ、中畑弟攻で兄受でよくね?」

二宮「そーだそーだ、弟に掘られちまえ」

矢野「中畑なんか下克上されちまえ」

言いたい放題である。

完はまた困り顔になった。

完「えーと…僕が草餅さんと友達になると、弟が攻で僕が受なの?」

こうなってはもはや支離滅裂である。

しかし、3人が3人とも自暴自棄になっていたので、

誰も反論しなかった。

柏崎「ああそうだよ。草餅さんに言っとけ」

柏崎がそう言うと、完は白衣の胸ポケットから小さな紙を取り出した。

それは完の名刺である。

完はそれを裏返すと、小声で何か言いながら書き始めた。

完「僕と、草餅さんが、友達になると…弟が、攻、で…」

二宮「メモるなwwwwww」

完「だって難しくて忘れちゃいそうなんだもの、で…えっと、僕が、受…」

矢野「よし、その名刺を草餅さんに渡せば完璧だ」

柏崎「待てwwそれじゃいくらなんでも草餅さんに前途がねえwww」

二宮「情技だし普通に萌えるんじゃねえの?ww」

完「…あれ?ちょっと待って」

柏崎「どうした」

完「じゃあ、草餅さんと友達にならなかったら僕が攻なの?」

二宮「ちょっwお前自分で言ったこと忘れたのかよww」

矢野「弟既婚で自分ホモじゃないって言ったろww」

完「そうだった」

柏崎「でも、そういうことにしても面白いかもな」

二宮「草餅さん次第で兄弟リバーシブルか」

矢野「よし、じゃあそれも書いとけ」

完「え、なんて書くの?」

柏崎「友達にならなかったら中畑が攻で弟が受」

完「友、達、に…ならな、かったら…僕が、攻で…」

完がくそ真面目に名刺の裏に小さな文字で

支離滅裂な文を書いている間に

自暴自棄を起こしていた3人の機嫌はすっかり良くなっていた。

完「…連絡先を書くスペースがなくなっちゃったよ」

柏崎「連絡先?」

完「携帯の」

3人「あ」

3人とも、完の携帯電話の番号もメールアドレスも知らない。

日々職場で接しているし、必要もなかったのだが、

3人「オレにもその名刺よこせ!」

と、食いついた。

完「えー?このしち面倒くさい説明文、あと3枚も書くの?」

仕方が無いので携帯電話の連絡先を名刺の表に書こうとしていた完が

心底面倒くさいという顔で応じる。

柏崎「説明文はいいからww携帯の番号とメルアドだけよこせ」

完「それならいいよ」

二宮「それ登録して、こっちからメールするから登録よろ」

完「うん」

完は3枚の名刺の裏に携帯電話の連絡先を書く作業に入った。

矢野「そういえばオレ達名刺交換してないんだよな」

柏崎「別にする必要もなかったしな」

二宮「どうせだから交換しとく?二宮と申します」

矢野「矢野と申します」

柏崎「やべ、オレ今名刺持ってねえわ」

二宮「じゃあ柏崎にはやらねーw」

矢野「ざまあwww」

柏崎「なんだよケチ…明日持ってく…あー明日オペだわ」

二宮「どこまでハズすんだよお前はよぉ」

矢野「受攻の説明で敢闘賞やろうと思ったのに取り消しだな」

柏崎「そこは全力で褒め称えてくれよ…」

完「はい、これ」

完が顔を上げて、柏崎に名刺を差し出した。

完「はい、二宮。矢野も」

二宮「毎度ー…ってお前メルアド本名じゃねえかよ!」

完「覚えやすいでしょ」

矢野「最後の1107って何?」

完「誕生日」

柏崎「11月7日生まれか」

完「そう」

完の携帯電話のメールアドレスは

osamu_nakahata_1107@dokozono.**.jp

だった。

その日の夜。

完の携帯電話に、3通のメールが届いた。

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件名:

柏崎宗一より

本文:

携帯の番号は0*0-1192-296*

やっと友達になれました

今後ともよろしく☆

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完「やっと…?」

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件名:

二宮でーす

本文

(゚∀゚)ノシ ヤッホー

0*0-4351-*106

今日からお友達ぃ!

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完「…のし?」

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件名:

矢野っちだよー

本文

友達だから明日から矢野っちって呼んでね(絵文字の笑顔)

携帯は 0*0-8600-46*9

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完「やだよそんなの……」

完は3人の連絡先をアドレス帳に登録すると、

3人に同報メールを送信した。

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件名:

中畑完です

本文

アドレス帳に登録しました

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他に書くことが思いつかなかったのではない。

そもそも他に何か書く必要性すら感じていない。

登録が完了したという報告でしかない、簡素なメール。

その一通で。

中畑完はやっと、最終医研最年少の愉快な仲間達の一員になったのだった。