某医療機関での日常

現代医科学恋愛ファンタジーというわけのわからないジャンルの創作文置き場。 小説というカタチを成していないので読むのにいろいろと不親切。たまにR18。 初めての方は「世界観・登場人物紹介」カテゴリを一読の上でお読みください。

介助生物プロジェクト

優と了は大学の頃から、礼英の卵子精子バンクに登録していた。

少しでも研究の役に立てば、ということらしい。

それがまさか、こんな形で実現しようとは…

(国際医療福祉機関礼英 最終医科学研究所内305号室)

完「…………ペグ」

ペグ、と呼ばれたその「生物」は、ベッドから起き上がると

人懐こそうな笑みを浮かべて、立ち上がって完にすり寄った。

ペグは、人間(優と了)と柴犬とパグ犬の掛け合わせで生まれた

「介助生物」である。

体毛はふさふさしており、服は必要ない。

すでに二足歩行も可能なこの生物は、介助目的で開発された。

最終医科学研究所…医療に必要なことはなんでもやる。

それこそ、新しい生物を生み出すことになろうと。

柴犬のあごの形状では人語の発話が難しいため、

パグ犬の遺伝子を組み込むことでそれを可能にした。

見かけは愛嬌のある柴パグ犬といったところか。

耳はぴんと立っており、ここに柴犬の遺伝子が生きている。

完「誠くんをよろしくね」

ペグ「がってんしょうちでい」

ペグは単性生殖だ。誠が成長しても、生きられる。

もちろん、それはペグが望めばの話だが。

今は子豚ほどの大きさだが、どこまで大きくなるのかはまだ未知数。

人間で言うと3歳児くらいの大きさだ。

だが、歩行はしっかりしていて、小学校高学年くらいの知能を持つ。

ペグは試用の域を出ていない。

生態はある程度わかっているものの、成長後どうなるかがわからない。

ペグが病気になった際の治療は礼英で行われる。

ペグはこの後、育児休暇をとっている了と優の元に向かうことになる。

(某県郊外のマンション 803号室)

完は襟を正し、呼び鈴を鳴らした。

誠「だあーう」

優「はーい、どちらさ…あら、お兄さん」

了「今開けるね」

優と了はまっさきに完の足元の生物に目をつけた。

優「この子は?」

了「お父さん!お父さんだ!!」

完「僕もそう思ったんだよ、そっくりだってね」

ペグのその風貌は、完と了の父親である一にそっくりだったのだ。

ペグ「ま、第二のお父さんだとでも思ってもらえれば」

優「しゃべったああああああああああああああ!!!!!」

了「なんだこいつ!!!」

ペグ「なんだこいつとは失礼な…」

ペグは前髪をかきあげるかのように自分の耳をなでると

ペグ「僕はペグ。君たち家族の介助に来たんだ」

と自己紹介をした。

優「介助…?介助犬…じゃない人間じゃない…なに!?なんなの!?」

完「人間と柴犬とパグ犬を掛け合わせた生物だよ」

了「ちょっと待った、その人間の遺伝子どこから持ってきた」

完「了と優ちゃん」

了「ならよし」

優「ならよしなの!?この子…ペグって何食べて生きるの!?」

ペグ「ああ…そういえばお腹空いた…人間が食べるものなら大抵は…」

了「あがってあがって!オレ何か作るから!」

了はぱたぱたとキッチンに向かった。

優「お兄さん…どういうことなんですか…?」

完「話すと長いんだけど、最終での介助生物の開発がけっこう前から始まっててね」

優「介助せいぶつ…?犬とかはきいたことありますけど」

完「遺伝子を組み替えて、犬と人間をかけあわせるんだ」

優「倫理的にどうなんですかそれ…」

完「…わからない。でも、結果的に君たちの役に立てればいいと思ってる」

誠「ぺー、ぺg…」

ペグは誠の頭をその手でなでた。

手の甲には毛があるが、手のひらには毛は生えていない。

手のひらはほぼ人間そのものと言えた。

人間の体に毛皮を着せて、柴犬とパグ犬を掛け合わせた頭部を

乗せたような恰好だ。

ペグ「おーよしよし、僕がわかるんだね?」

誠「ぺg…だぁーう」

優「まあ、誠が気に入ったならよし!」

完「ただし、1か月に1回レポートを提出してもらうことになるんだけど…」

優「お安い御用!!それでその…」

了「チャーハンできたよ~」

タイミングが良いのか悪いのか、了が作ったチャーハンが出来上がった。

了「それではみんなそろっていただきます」

優「ネギ入ってないよね?」

完「ああ、犬はネギはダメだもんね」

了「入れるわけないだろ!!玉ねぎもネギも入ってません!!」

ペグ「入れてくれてもよかったのに…」

完「それは本当に大丈夫なの?」

ペグ「本当に大丈夫。いただきます!」

ペグは人間と全く同じようにスプーンで勢いよくチャーハンを平らげ

ペグ「ごちそうさまでした!」

完「早食いは早死にするよ」

ペグ「精進します…」

誠「ぐー」

ペグ「さあ、その前に『ペ』をつけてごらん」

誠「ぐー、ぺg…あうー」

ペグ「惜しいんだよなあ…」

了「それで兄さん」

完「何?」

了「こちらのペグさん、おいくら万円?」

完「それさっき言おうと思ってたところ」

夫妻はごくり…と唾をのみ込んだ。

完「もともと遺伝子はふたりから提供されてるし、

月に一回の詳細なレポートだけでいいよ」

了「マジか!?」

完「ただし本当に詳細に書かなきゃいけないんだけど」

完はバッグから冊子を取り出した。

冊子には『介護生物観察利用レポート』と書いてある。

完「ここに毎日ペグと誠くんの様子を記入してもらう」

優「なになに?体温、生活記録、その他…1日1ページ?」

了「サボったらどうなんのこれ」

優「病気になったらどうするのこの子」

完「レポートはサボってもいいけど、今後の研究資料になるから

  できるだけ正確にね。ペグの治療は礼英でやるから」

了「サボってもいいって言っていいのかそれ…」

完「健康であれば1日くらいサボっても問題ないっていう程度だよ」

優「なんか夏休みの宿題みたいだけどペグが相手なら面白そう~」

ペグ「なんか僕のこと夏休みの自由研究のアサガオか何かみたいに

   思ってない??っていうか何か匂わない?」

誠「あ゛ーーーーーーーーーーーー」

優「あーあー」

優が誠のオムツを替える。

優「さっすがペグ、鼻が利くわね」

了「犬と人間のハーフだからな」

完「まあ、乱暴な言い方をすればそうだね」

ペグ「それはそうと…えーと、お父さん?パパ?了?」

了「お父さん顔の犬みたいな生物にお父さんって言われるのもちょっと

  だけど人間でもないのに了って言われるのもちょっと」

ペグ「どうしろと!?」

優「私も困る…なんて呼んでもらおうかな…」

ペグ「誠くんは誠くん?誠?まーくん?」

誠「ぺg…ぺ…ぺぎょるふ」

完・了・優「ぺぎょるふwwwwwww」

ペグ「認めない!認めないからな!!」

誠「ぺぎょるふ、ぺぎょるふ」

誠は満足そうだ。

完「正式名称も決まったことだし」

ペグ「決まってない!」

完「じゃあ何?」

了・優「ぺぎょるふww」

ペグ「こーーーらーーー!!!」

了「あっはは、なんかお父さんに怒られてるみたいで懐かしいんだけど」

完「僕も…」

完は、ペグの体臭に覚えがあった。

父のそれとそっくりだ。

高校時代に了に快楽を強いて得た、あの感覚が嗅覚をくすぐる。

それが常時ペグの体から発せられているのだ。

ペグ「さっき言いかけたことだけど」

優「何?」

ペグ「了から僕と似たような匂いがする」

了「え!?オレ犬くさい!?」

ペグ「犬じゃない!!」

完「うん、間違いなくするよ」

了「マジで!?遺伝かなあ」

優「いつもの了と変わらないと思うけど、了のお父さんって

  こんな匂いなんだ」

優がペグの首元に鼻を寄せて匂いを嗅ぐ。

ペグ「くすぐったいんだけどw」

優「うん、悪くない匂いだ、気に入った」

了「まさかオレの体質まで受け継いでないだろうな…」

完「そのまさかなんだよね…」

ペグは、性的に非常に敏感である。

まだ年齢がそれほどでもないため、今はくすぐったいで済んでいるが。

了「ペグ…同情するぜ…」

ペグ「え、なに?体質ってどういうこと?」

完「ペグ」

完がペグを抱き寄せて、ペグの首元で深呼吸する。

ペグ「うっははははは!!何すんねん!!」

完「えっと…充電」

了「ぺぎょるふはどこで日本語を教わったんだ…」

以降、ぺぎょるふ(愛称ペグ)は介助生物として

中畑家に迎え入れられることになる。