某医療機関での日常

現代医科学恋愛ファンタジーというわけのわからないジャンルの創作文置き場。 小説というカタチを成していないので読むのにいろいろと不親切。たまにR18。 初めての方は「世界観・登場人物紹介」カテゴリを一読の上でお読みください。

ロッソの歌

青木「次の曲、女性ボーカルにしようと思ってるんだ」

医療機関礼英 第3食堂 昼食時】

マカポー「Who?」

青木「目星はつけてある」

長瀬「だから誰よ?」

青木「ロッソ」

了「はあ!?」

了が驚く。

了「なんでいきなりロッソなの?」

青木「鬼ごっこの時にもらった休みで一緒にロックバンドフェス行って

   帰りに一緒にカラオケに行って声に惚れた」

長瀬「あ~あったなそんなの、懐かしい」

マカポー「ロッソの sing a song そんなにイイノカ…?」

青木「少なくともオレの曲のイメージにはぴったり」

離れた席で。

ロッソ「むっ」

ピアノ「どしたのロッソ」

ロッソ「情技の若手が私の話をしている」

ピアノ「ロッソ地獄耳すぎない?」

プリも「入ってきちゃいなよ」

ロッソ「うん、入ってくる」

いつになく積極的なロッソだった。

ロッソは麻婆豆腐定食の載ったトレイを乗せて

青木たちのいる席に向かった。

ロッソ「お邪魔します」

青木「ロッソ、ちょうどいいところに」

青木が自分の隣を勧めた。

青木「ロッソさ、今度オレが作った歌うたってくれない?」

ロッソ「ぶっ!?げっほげほげほ」

ロッソが激しくむせた。

ロッソ「わ、ワタスみたいなピザが舞台に立つなど…」

ロッソは少々太り気味である。

ピザというのはデブの暗喩である。

アメリカの太ってる人って毎日デリバリーピザばかり食べていそう、

という話からデブ=ピザになった。

長瀬「青木がロッソの声に惚れたみたいでさ」

青木「オレが言おうとしたのに」

青木はラーメンを一口すする。

青木「次の曲にぴったりなんだロッソの声。お願い」

青木はテーブルに手をついて深々と頭を下げた。

ロッソ「い、いつ発表するですか…」

青木「今度のクリスマス会」

ロッソ「それまでにやせられないでござる…」

ひたすら体型のことを気にするロッソだった。

了「そのぐらいの体型の人、他にもたくさんいるから大丈夫だと思うよ」

マカポー「我儘マシュマロボディひけらかしチャイナ!」

ロッソ「やだやだやだやだやだやだ…」

青木「ああもう!」

青木にしては珍しく声を荒げた。

青木「バンドリーダーのオレがいいって言ってるんだからいいの!」

長瀬「青木がキレたとこ初めて見た」

青木「オレが本気でキレるともっとひどいよ」

マカポー「Mr.Aoki 恐るべし…」

ロッソは麻婆豆腐を一口食べて、言った。

ロッソ「わ…ワタスで良ければ…」

青木「やった!じゃあ早速練習に入ろう!譜面は読める?」

すっかりやる気満々の青木だった。

ロッソ「譜面は読めないです…」

青木「じゃあイテボで打ち込んだやつ渡すから聞いて」

青木がメモリーカードを差し出す。

マカポー「用意周到スギヤセンカww」

了「青木すげえ」

長瀬「いつの間に用意したww」

ロッソはメモリーカードを受け取ると

ロッソ「歌詞カードとかありますか?イテボ聞きなれてないんで…」

青木「あ、そこまでは用意してなかった、あとで渡すわ」

【後日 医療機関礼英 講堂 クリスマス会】

龍崎「礼英主催のクリスマス会にようこそ!

   今日は皆さん楽しんでいってくださいね~

   それでは早速わが礼英が誇るバンド演奏から!」

マイクが龍崎から青木に移る。

青木「みんなああああああああああああああああああ!!!!」

観客席「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

青木「めんどくさい歌!いきます!」

 またそこでなにスネてんの

 (だってだってでもでもだって)

 あれほどボクが言ったでしょ

 (だってだってでもでもだって)

 そうやってスネてればきっと

 だれか来てくれると思ってんの

 ムシが良すぎ 都合が良すぎ

 ボクはキミの便利屋じゃないよ☆

 さっさとどっか行っちゃえよ

 ボクなんてアテにしてないで

 かわいいキミのことだから

 いくらでも候補はいるんでしょ

 さっさとボクを置いてって

 キミのおもりなんてつかれたよ

 かわいいキミのことだから

 突き放せば文句言うんでしょ

 めんどくさい めんどくさい

 キミのすべてがめんどくさい

 めんどくさい めんどくさい

 もうなにもかもめんどくさい!

 めんどくさい!

 めんどくさい!!

 めんどくさい!!!

 めんどくさい!!!!

叶具によるドラムソロ、矢野によるアルトサックスソロをはさんで

青木「めんどくさ-------------い!!!!」

観客「めんどくさーーーーーーーーーーーーーい!!!!」

すっかり意気投合した講堂内。

青木「新曲は女性ボーカルでお送りします!『アクアリウム』!」

叶具が静かにドラムを叩き、青木も鈴木も矢野も控えめな音量で奏でる。

真ん中に琉球貨物のTシャツを着たロッソがマイクスタンドを前にして現れる。

歌が始まる。

 アクアリウムの中に映り込むラブソング

 決して特別な物じゃないけど

 私だけの心に残るそれ

 たったひとつの物だけれど

 流れては過ぎ去っていく

 世界に流されないように

 私の手はそれをつかんだ

 離さないように

 離れないように

 誰も聞いてくれなくてもいい

 これは私だけの愛の歌

 誰に届かなくてもいい

 これは私だけの愛の歌

 アクアリウムの中に映り込むラブソング

 ありきたりですてられたもの

 私だけが歌い上げるそれ

 たったひとつ言えることは

 流れては過ぎ去っていく

 世界とおんなじように

 私の手もすり抜けていく

 離れていくんだ

 離れていくんだ

 やっぱり誰かに聞いて欲しい

 これは私だけの愛の歌

 誰かひとりに届いてほしい

 届け私だけの愛の歌

 闇の中もがいて

 たどりついたアクアリウム

 ありきたりの歌たちの墓場

 その中の宝物を見つけて

 ありきたりなんかじゃない

 この歌は私の歌

 引きずり出された愛のかたまり

 誰も聞いてくれなくてもいい

 これは私だけの愛の歌

 誰に届かなくてもいい

 これは私だけの愛の歌

 やっぱり誰かに聞いて欲しい

 これは私だけの愛の歌

 誰かひとりに届いて欲しい

 届け私だけの愛の歌

しっとりとした矢野のアルトサックスソロで曲は終わった。

ぽつりぽつりと拍手が鳴り、盛大なものへと変わる。

二宮(この声…体型…オレの理想そのもの…!!)

客席で見ていた二宮はロッソに目を付けた。

それから二宮によるロッソへの猛アタックが始まるのである。

医療機関礼英 庭園】

ロッソ「いらっしゃいませ~安くしておきますよ~」

秋祭りの時と同じように、庭園には露店が並び、

職員や礼英の息のかかった大学がフリーマーケットを開いていた。

二宮「ローーーーッソさん♪」

ロッソ「あ、二宮先生、お疲れ様です」

ロッソは深々と頭を下げる。

二宮「歌、聴いたよ。ロッソさんっていい声だね」

ロッソ「あ…ありがとうございます」

二宮「歌詞はロッソさんが書いたの?」

ロッソ「歌詞は青木先生が…」

二宮「そうなんだ?てっきりロッソさんが書いたものと」

二宮は話している間中、ロッソの若干ふくよかな体をくまなく見つめていた。

その視線は、ロッソに危機感を抱かせた。

ロッソ(この人…性的にワタスに興味があるっぽい…?)

大当たりだったのである。

二宮「ねえ、もしよかったら今度一緒に猫カフェでもいかない?」

ロッソ(来た!!!!)

ロッソはあからさまに身をこわばらせた。

ロッソ「猫アレルギーなので…」

二宮「ハリネズミカフェもあるよ」

ロッソ「先端恐怖症なので…」

嘘である。

ロッソはなんとしても二宮の誘いを断りたかった。

二宮「フクロウカフェもあるよ」

ロッソ「首がぐるぐる回るのが苦手なので…」

二宮「じゃあカラオケ行く?」

ロッソ「ぐ…」

歌を披露した手前、歌が苦手とは言えない。

どこまでも回り込む二宮だった。

二宮「決まり!じゃあ日取りは…」

ロッソ「ま、待ってください」

二宮「あれだけ歌が上手なのにカラオケ嫌なの?」

ロッソ「いや、歌うのが嫌というか…なんというか…」

完「二宮」

二宮「あ?」

いつの間にか背後に完と鈴がいたのであった。

二宮「なんだよリア充

完「しつこい男は嫌われるよ」

二宮「しつこいって…お前いつからそこにいたんだよ」

二宮が若干けんか腰で完に食って掛かる。

完「猫カフェのあたりから」

二宮「陰険な奴だなー、それにオレが誰に興味抱こうと勝手だろ」

鈴「ロッソ…嫌?」

ロッソは激しく首を縦に振った。

二宮は大きくショックを受けた。

これまで女性からそんな反応をされたことがなかったのである。

二宮「そんな…オレのアプローチが通じない…!?」

ロッソ「あんまり最初から性的な目で見られるの嫌なんです」

ロッソは今度こそきっぱりと言った。

完「あ~あ、日ごろの行いが悪いから…」

二宮「うるせー!ロッソさん、気が向いたら連絡してね」

名刺を差し出す二宮だったが、ロッソは受け取らなかった。

そんなロッソの胸元に、二宮は名刺を押し付けて手を離した。

名刺はロッソの足元に落ちた。

ロッソの行動はいちいち二宮を傷つけた。

二宮「それじゃ…またね…」

すっかり肩を落として去っていく二宮。

ロッソ「またなんてないですから…」

鈴「二宮先生の日ごろの行いってどんな感じなんですか?」

完「昼間から女性と性的交渉したいとか口走るんだよ」

『セックス』とは言わないのだった。

ロッソ「最低!!昼間からセックスしたいとか!!」

鈴「しー!!ロッソ声が大きい!!」

ロッソ「やっぱ誘いに乗らなくて正解だったわー」

散々な言われようである。

青木「ロッソお疲れ~」

そこへ青木が差し入れのベビーカステラを持ってやってきた。

ロッソ「青木先生!ワタスの歌どうですた…?」

青木「ばっちり!あ、今度のクリスマスフェス行く?」

ロッソ「行きます行きます!」

青木「アフターでカラオケとかどう?」

ロッソ「行きます行きます!」

さっきまでとは打って変わってノリノリのロッソだった。

鈴「ロッソ、二宮先生より青木先生のほうが合うんじゃないの?」

青木「二宮先生?それなんの話?」

ロッソ「さっき二宮先生にしつこく誘われて二人に助けられたでござる」

完「それで青木くん、どうなの?ロッソさんは」

青木はほんのり頬を赤らめて答えた。

青木「ロッソは仲間っつーかなんつーか…」

ロッソ「ロックバンド好き仲間です」

鈴(ロッソ…鈍い…?)

【後日 医療機関礼英 第1食堂 昼食時】

今日は最終の若手が全員そろっているので、

友人規定で一緒に昼食をとっていた。

完「それはそうと二宮」

二宮「あん?」

完は鯖の味噌煮定食を食べる手を止めて、二宮に話しかけた。

二宮はそのままカルボナーラを食べている。

完「ロッソさんは青木先生と気が合うらしいよ」

矢野「誰?ロッソって」

完「情技の看護師。いつかの鬼ごっこに参加してた」

柏崎「どんなん?」

二宮はいそいでカルボナーラを咀嚼すると、言った。

二宮「魅惑のマシュマロボディに魅力的な歌声の彼女だよ!」

矢野「あー、クリスマス会で歌ってた彼女か」

柏崎「そのマシュマロボディっていうやつ、本人の前で言ってないよな?」

二宮「言ってねえよ!それより誰だよ青木って!」

完は、あ、しまったという顔をした。

完「えーとその…名前しか知らない」

二宮「鬼ごっこに参加してたか!?」

完「忘れた」

完らしからぬ答え方である。

二宮「おのれ青木…このオレをコケにしやがって…!!」

矢野「なに二宮、ひょっとしてロッソさんにアプローチして撃沈した?」

柏崎「それで青木って奴に持ってかれたわけか」

完「そうと決まったわけじゃないけど」

完は味噌汁を一口すすると、言った。

完「二宮、嫌われたね」

二宮「うるせー!畜生青木のやつぶっ飛ばしてやる…」

矢野「あーあー、男の嫉妬ってみにくーい」

二宮「矢野だって独り身だろうが!」

柏崎「二宮諦めろ、普段からセックスしたいとか言ってるのが悪い」

柏崎はチキン南蛮を平らげていた。

一方二宮は食が進まないようだった。

矢野「二宮、昼休み終わっちまうぞ?」

二宮「食うよ、食えばいいんだろ食えば!!」

半ばやけ食い状態だった。

その傍らで矢野はラーメンを平らげて、レンゲでスープを飲んでいた。

二宮「中畑、青木ってやつには会ったんだろ?」

完「あー、まあ」

二宮「どんな背格好してた?」

完「青木先生の身の安全を考えて答えないことにしておく」

完は鯖の味噌煮定食を平らげた。

二宮「チッ…このオレの獲物を横取りした罪は重いぜ青木…」

完「青木『先生』ね。あと、横取りしたと決まったわけじゃないから」

【同日 医療機関礼英 第3食堂 昼休み】

マカポー「まさかロッソがあんなに sing a song very nice とは…」

了「才能はどこに転がってるかわかったもんじゃないな」

長瀬「聴き惚れたぜ…いい声してやがんのな」

青木「歌声と地声が全然違うんだよロッソは」

マカポーはカルボナーラを、

長瀬はチキン南蛮を、

青木はラーメンを、

了は鯖の味噌煮定食をそれぞれ食べていた。

長瀬「それで青木、どうなんだよロッソは」

青木「どうって?」

長瀬「どうこうならないのかよ」

青木「うーん……」

青木はラーメンを一口すすってこう言った。

青木「ロッソはオレにはもったいないと思う」

全員が食べるのを止めた。

了「なんで?同じ情技の職員だろ?」

マカポー「why?」

長瀬「いくらなんでも謙遜しすぎじゃねえか?」

青木「二宮先生がロッソに名刺押し付けてるの見た」

青木以外の全員が『あちゃ~』と顔に手をあてた。

青木「どう考えても二宮先生のほうが高収入だし」

長瀬「でも…青木の気持ちはどうなんだよ?」

了「試しに告ってみ?」

マカポー「Go go Aoki !!」

青木「うーん……」

青木はチャーシューを頬張り、つかの間静寂。

チャーシューを飲み込むと、青木は言った。

青木「オレはロッソとの今の関係を崩したくない」

長瀬「関係ってどんな?」

マカポー「アレだ、rock band fes つながりダロ」

了「あーなるほど」

青木「音楽の好みも似通ってるんだよな…」

離れた席で。

ロッソ「はあ~~~~」

ピアノ「どうしたロッソ」

プリモ「そんなごっつい溜息ついて」

鈴「ひょっとして…二宮先生のこと?」

その場にいただけあって、鈴は察しがいい。

ピアノ「そういえば二宮先生、このところやたらとここにお昼食べに来るよね?」

ロッソ「そのたびに鬼の形相でにらみつけるの疲れた…」

プリモ「二宮先生となんかあったの?」

ロッソは事の顛末を二人に話して聞かせた。

ピアノ「まあ男なんてみんなチンポで生きてるんだから…」

ロッソ「だからってあんな視線投げかけるのはあんまりだあ…」

ロッソは頭を抱える。

プリモ「いいなあ玉の輿~、乗っちゃいなよyou」

鈴「ロッソにも好みという物があると思うの…」

プリモ「え~?二宮先生イケメンじゃん」

ロッソ「視線がセクハラ…この前も『そういう』目でワタスのこと見てた…」

後日。

二宮が青木に挑戦状をたたきつけることになるとは

誰にも予想がつかないのだった。