某医療機関での日常

現代医科学恋愛ファンタジーというわけのわからないジャンルの創作文置き場。 小説というカタチを成していないので読むのにいろいろと不親切。たまにR18。 初めての方は「世界観・登場人物紹介」カテゴリを一読の上でお読みください。

有頂天高原旅行記 最終回

(ホテル前)

完「では帰りましょうか」

鈴「旅行、楽しかったですね!」

完「本番はここからです」

鈴「え?」

完は携帯電話を取り出すと、自宅の母に電話をかけた。

完「もしもしお母さん?

  今から帰るから。

  …うん。だから夕食は3人分用意しておいて。

  それじゃあ」

完が電話を切ると、鈴はきょとんとしていた。

完「これから僕の実家に寄ります」

鈴「え!?」

完「大丈夫です。僕の母はそんなに厳しくありませんよ。

  バレンタインデーのチョコケーキも

  おいしく味見していましたし」

鈴「でででででも私こんなラフな格好で」

完「有頂天高原で遊ぶならそれが普通です」

(某県 国道)

鈴「どうしよう…顔が好みじゃないとか言われたら…」

完「僕が母に軽くビンタしておきますから大丈夫です」

車内ではジャズピアノが静かに流れている。

完「母がどう言おうと僕の気持ちは変わりません。

  もし母が認めなくても、僕は鈴さんと駆け落ちします」

鈴「うさぎさん……」

鈴は感動した!

しばし無言の時が流れる。

鈴(うさぎさんとこうしてると安心する…)

鈴は隣の完の顔を見ていた。

完「ん?僕の顔に何かついてますか?」

鈴「いっ、いえ、なにも…ついクセで」

完「運転席の人を凝視するのがクセなんですか?」

鈴「うさぎさんを見つめるのがクセです」

完「……………………」

赤信号で車が止まる。

完は、自分のほうをむいたままの鈴に軽いキスをした。

鈴「なっななななにするんですかぁ!」

完「いつぞやのふいうちのおかえしです」

鈴「え、ふいうちなんてしましたっけ?」

完「瞼に何かついていると嘘をつかれました」

鈴「そんな昔のこと根に持ってたんですか」

完「僕にとってはそんなに昔ではありません」

そうこう言っているうちに信号がかわる。

中畑家はもうすぐそこだった。

(某県郊外 中畑家 リビング)

完「ただいまー」

和「おかえりなさい、お連れの方は?」

完「同じ職場の柏木鈴さん」

鈴「こ…こんばんは…」

和「あらーかわいらしいこと、鈴ちゃんっていうの?」

鈴「かわいらしいだなんてそんな…」

完「とりあえずあがりましょう」

鈴「はい」

完と鈴は玄関を上がり、ダイニングテーブルについた。

和「ちゃんと3人分用意したわよ、鮭のマリネ」

完「ありがとう。僕からのおみやげはこちらの鈴さん」

鈴「えっ!?」

完「結婚を前提におつきあいしてます」

和「あらあらまあまあ、お祝いしなくちゃ」

鈴「まっまだ早いですよぉ」

和「またまたぁ、有頂天高原で仲良く旅行してたんでしょ?

うちの完をよろしく頼むわね。

いろいろと不器用な子だけど根はやさしいのよ」

完「どうせ包丁もろくに持てないよ」

玲央医大では3食つきの寮に入っていたため、

完には料理の経験がほとんどなかったのだ。

鈴「わ、私も料理の腕はほめられたモノではありませんから…」

和「チョコケーキおいしかったわよ~気が向いたら

  バレンタインじゃなくても作ってほしいわ」

和は夕食をテーブルに置きながらそんな冗談を飛ばす。

鈴「あのこれ、つまらないものですが…」

鈴は紙袋から有頂天高原土産のクッキーの詰め合わせを

和に差し出した。

和「あらあら気を使わせちゃって…

  食後にみんなで食べましょ。

  書斎にもあとでお供えしなきゃね」

完「それは僕がやるよ」

和「あらそう?じゃあ、せきについたらいただきます」

完・鈴「いただきます」

食事が始まる。

席順は以下の通り。

鈴 完

和「若いっていいわね~~」

並んで座る二人を見比べながら和は上機嫌だ。

和「私とお父さんも、よく有頂天高原でデートしたのよ」

鈴「本当ですか?」

和「本当よ。そのころの写真が今でも残ってるわ」

完「父と母は本当に仲良しで、見ているこっちが

  恥ずかしい夫婦でしたよ」

鈴「見られないのが残念です。お悔やみ申し上げます」

和「今は書斎の本が忘れ形見ね」

そんな会話をしながら食事は進む。

鈴「おいしいですね、鮭のマリネ」

和「よかった~。完のお気に入りなのよ」

完「僕の誕生日は決まって鮭のマリネです」

鈴「私も作れるようにならないと…」

和「あらあらいいのよ、おうちのことは私にまかせて。

  鈴ちゃんだってお仕事あるでしょ?」

鈴「それは…完さんと相談の上で…」

完「うーん…鈴さんひとり増えたところで

  家計に負担はないよねお母さん」

和「そうねえ、家はもう立ってるしローンも終わってるし」

完「鈴さんさえよければ、家に入ってもらえると

  母も退屈しないでしょうし…

  でも、急に辞めるわけにもいきませんね」

鈴「私の後任が見つかれば、辞めるの自体は簡単ですが

  …私、今のお仕事気に入ってるんです」

和「そうよね、無理して辞めることないわ」

完「お母さん、毎日ハムスターとしか会話できなくて

  寂しいって言ってたような気がするんだけど」

鈴「えっ、その…お母様ってハムスターと会話できるんですか!?」

和「あっはっはできないわよいやだわ鈴ちゃんったらうふふ」

和は笑いのツボに入ってしまった。

和「うふふ、とにかく今のお仕事気に入ってるなら

  精一杯がんばってちょうだい。

  おうちのことは今まで通り、そこに鈴ちゃんが増えるだけ。

  いいわね、完?」

完「僕はいいけど…鈴さんは?」

鈴「ふつつか者ですが、よろしくお願いします」

和「あら大変、肝心なこと忘れてたわ」

完「何?」

和「鈴ちゃんはハムスター平気かしら」

鈴「平気ですよ。ハムスターかわいいですよね」

和はその一言を聞いて胸をほっとなで下ろした。

和「うちには今6匹のハムスターがいるのよ、見る?」

鈴「6匹!?見たいです見たいです!」

和「みんなでクッキー食べたら、見に行きましょ。

  その頃にはみんな起きてくるはずだから」

そしてお茶の時間が始まる。

和「鈴ちゃん、完とはどうやって知り合ったの?」

鈴「完さんの弟さんの紹介で…」

完「奇妙な合コンさせられて知り合ったんだ」

和「あらあらどんな奇妙な合コンだったのかしら」

完「鈴さん以外名札つけてない合コン」

和「ずいぶんとあからさまねえ」

鈴「そのあからさまな合コンで草餅とあだ名をつけられました…」

完「僕はうさぎさん」

和「ちょっwwwどこから出てくるのその名前www

  草餅…うさぎ…ぷっ、うっふふふあははは」

完「ここは笑うところだから気が済むまで笑っていいよ」

鈴「職場でもそう呼びあってますしね」

和「何かの暗号みたいっくふふふ」

完「とはいえ職場は別々だから食堂でしか会えないけど」

和「あら、最終の看護師さんじゃないの?」

鈴「私は情技の看護師です。だから同じ情技の弟さんの紹介で…」

和「情技にいるの?お父さんに会ったことあるのかしら」

鈴「私は担当ではありませんでしたが、お顔を見たことは

  食堂で何度かありました」

和「うちの完、お父さんに似てるでしょ」

鈴「言われてみると…そうですね」

和「でも、あの特異体質は遺伝しなかったのよ」

鈴「弟さんのアレですか」

和「知ってる?おもしろいのよねアレ」

完「まったくあの歳になってまでいじられてるなんて

  了は職場を間違えたんだよきっと」

そんなことを話しながら、お茶とクッキーが三人の胃の中におさまってゆく。

和「さてと。みんな起きてきたかしら」

鈴「ハムスターですね!楽しみです!」

完「何匹いるんだっけ?」

和「おじいちゃんおばあちゃんおとうさんおかあさん男の子女の子で6匹よ」

鈴「三世代!」

(某県郊外 中畑家 元了の部屋)

了の部屋の東側の壁面には、ラックが備え付けられ

そこにハムスターのケージが6つ綺麗に並んでいた。

鈴「みんな一人部屋なんですね~うわ~回ってる回ってる」

和「その回し車で回ってるのがはじめちゃん。おじいちゃんよ」

鈴「おじいちゃんですか…」

完「おじいちゃんと孫で3ヶ月くらいしか離れてないんだっけ?」

和「そうよ」

鈴「ええ!?」

そんな会話をしていたら、すっかり遅くなってしまった。

和「鈴ちゃん、今日はここに泊まっていったら?」

鈴「え、でも…」

完「明日は僕の車で一緒に職場まで行きましょう」

和「明日はお荷物まとめてここに帰っていらっしゃいね」

完「気が早いよ和さん」

鈴(うさぎさんちにお泊まり…うさぎさんの部屋…!)

鈴は興奮していた。

(某県郊外 中畑家 完の部屋)

完「狭いシングルベッドですみません」

鈴「いえいえおかまいなく…」

まず目についたのは机と本棚。

机の上は整然としているのに、本棚のまわりには

本タワーがいくつかできていた。

完「乱読するので散らかってしまって…あとで片づけます」

鈴(完さんのいい加減な一面!)

完「鈴さんはその間にお風呂…あ」

鈴「なんですか?」

完「下着の替えとか足りませんよね…」

鈴「大丈夫です。念のため1泊分よけいに持ってきてますから。

ただ…服は今日と同じになってしまいますけど…」

完「ハンガーにかけてファブリーズでもしておきますか」

鈴「そうですね」

鈴は本のタイトルを読もうとしたが、

鈴(…みんな英語だかドイツ語だかで読めない…)

挫折した。

学習机にはノートパソコンが置かれていた。

鈴(うさぎさんのネット履歴見たい…)

完「あ、星空の写真を渡す約束でしたね」

鈴「そ、そうでしたそうでした」

完はノートパソコンを機動し、デジカメから記録メディアを取り出した。

メディアをノートパソコンに差し込むと、

自動で写真がノートパソコンに取り込まれてゆく。

それが終わると、

完「鈴さんのデジカメのメモリーカードを貸してください」

鈴「はい」

鈴はこの時、旅行前にデジカメの画像を全削除しておいた自分に感謝した。

コスプレ画像がたくさん入っていたのである。

完は鈴の写真を取り込むと、さきほど取り込んだ星空の写真を

鈴のメモリーカードにコピーした。

完「これでOKですね。なにもしないのも悔しいので、

  フェイスブロックには蝶の写真でもアップしましょう」

完は慣れた手つきでフェイスブロックに蝶の写真をアップロードした。

「渓流の蝶」という題をつけて。

鈴「綺麗ですね…」

そのとき、部屋のドアがノックされた。

和「お風呂わきましたよ~」

完「はーい」

いつものクセでドアに向かいそうになる完だったが、

完「一番風呂は草餅さんに譲ります」

鈴「えっ、いいんですか」

完「父が生きていた頃、僕は二番目でした。だから…」

鈴「…わかりました」

完「タオルなどの場所は母に聞いてください」

鈴「はい」

鈴は部屋をでて、階段を降りていった。

完のフェイスブロックに、早速コメントがついた。

了:夏休みおめでとう

二宮:やることやったんだろうな?

矢野:幸せになれよ!

完(そういえば柏崎はドイツか…)

柏崎のフェイスブロックは大変なことになっていた。

題:結婚します

柏崎と雪が並んで立った写真がアップされていた。

写真の下には

「同盟規約の最終項目を参照のこと」

と書かれていた。

A:くやしいが君の勝ちだ

B:絶対に幸せにすること

など、礼英最終の医師からだと思われるコメントがずらりと並んでいた。

龍崎:おめでと~~☆

卯月:禁酒令は続行です。お幸せに

完「みんなマメだなあ…」

二宮:やりやがったなこの野郎!(笑)

矢野:一発殴らせろ!(笑)

完も一文書いた。

完:結婚式には呼んでください(笑)

(笑)は二宮と矢野にならってつけただけで

深い意味はなかった。

(某県郊外 中畑家 浴室)

鈴(シャンプーもリンスもひとつずつしかない…

  うさぎさん、母上のシャンプー使ってるんだ…

  そして今日は私もこれを使うんだ…!)

同じシャンプーの香りをまとって職場にゆく二人。

鈴は妙にドキドキしていた。

鈴(うさぎさんと同じにおいになれる!なってしまう!)

シャンプーもリンスもボディソープも

鈴のときめきを爆発させる材料になってしまう。

鈴(早く洗わなきゃ…)

鈴は念入りに髪を洗うと、リンスに手をのばした。

鈴(あ…すごいいい香り…)

シャンプーの時は気づかなかったが、やけに香りのたつコンディショナーだった。

鈴(これってひょっとしてあのイエースイエースイエース!のアレかな…)

その香りをまとった完を想像してみる。

鈴(最終のお医者さんがときめいちゃうようさぎさん!)

そのあとは光の早さで完受けの妄想を走らせるのだった。

入浴後、鈴はドライヤーで髪を乾かし、完の部屋へ向かった。

(某県郊外 中畑家 完の部屋)

ノックの音。

鈴「お風呂あがりましたー」

完「お疲れさまでした」

フェイスブロック巡りをしていた完は、

ノートパソコンをそのままにして立ち上がった。

完「僕がお風呂に入っている間お暇でしょうから

  インターネットでもしていてください」

鈴「いいんですか?」

完「セキュリティソフトは入れていますが、

  あまり危ないサイトには飛ばないでくださいね」

鈴「はい」

完「では、行ってきます」

完は階段を降りていった。

鈴(さてさて…)

鈴は完のネットサーフィン履歴を参照してみた。

ips細胞、再生医療などの医療情報などが大半で、

あとはロシアンブルーの画像が大量に出てきた。

鈴(ロシアンブルー、本当に好きなんだなあ…)

不用心なことに、フェイスブロックまで

ログインしたままになっていた。

鈴(こ…これはいじらないほうがいいよね)

鈴は詮索をやめ、自分のツイッパーを開いた。

そこに完からもらった星空の写真をアップした。

「有頂天高原最高でした!」とのコメントをつけて。

ロッソ:夏休みおめでとう!

鈴:ありがとう!楽しんできたよ!

ピアノ:リア充おつ~!!

鈴:うさぎさんかわいいよハァハア

プリモ:おみやげよろしく!

鈴:ふっ、ぬかりはない

そのコメントと一緒に、携帯で撮ったクッキー詰め合わせをアップした。

ツイッパーだけなら携帯でもできるので、鈴は別のサイトを見ることにした。

鈴(pixyなら大丈夫かなあ…ああでも大量にBL画像あるし…)

鈴は完のノートパソコンで一体なにを見たらよいのかわからなくなっていた。

鈴(…ハムスターの様子でも見に行こうっと)

鈴はパソコンをそのままにして部屋を出ていった。

同時に完が階段を上ってくる。

完「ご用事ですか?」

鈴「ハムスターが見たくなったので」

完「一緒に見ましょうか」

鈴「はい」

ふたりは元・了の部屋に入った。

となりあったケージで、顔を寄せあい

挨拶を交わしているかのように見えるハムスター。

完「一緒にしておくと、たちまち増えますから」

鈴「そうですよね…」

完「唯一このおじいちゃんハムスターだけ、さわれます」

鈴「他の子はダメなんですか?」

完「いえ、僕が恐がりなだけです」

鈴「ハムスター、さわってみたいです」

完「じゃあこのおじいちゃんを…おいで」

ケージの扉を開けると、「はじめ」がのそのそと

完の手の上に乗ってきた。

完「はい鈴さん、パス」

鈴「はい」

受け渡されるハムスター。

鈴「かわいいですね~~~」

完「ええ。母も親バカならぬハムバカですよ」

鈴「完さんみたいな息子さんもいて、ハムスターもいて、

  お母上は幸せですね」

完「いずれは鈴さんもここに…なんて…だめですか?」

鈴「私、結納金を稼がないといけません」

完への結納品といえば、高級な腕時計だろう。

鈴の給料では当分かかりそうだった。

鈴「うさぎさんの腕にはロレックスを…」

完「父のお下がりですがもう持っています」

鈴「あああ……」

完「おっと」

鈴の手からハムスターが滑り落ちそうになっていた。

そこを完がキャッチする。

完「ハムスターはこのくらいにして、そろそろ寝ますか」

鈴「はい…」

若干気落ちした鈴とともに、完は自室へ戻った。

(某県郊外 中畑家 完の部屋)

完「あらためまして狭いベッドですが…」

鈴「ふたりくらい寝られますよ!あ、でも

  うさぎさんがベッドから落ちないように

  うさぎさんは壁側で…」

完「いいえ鈴さんが壁側で。僕はこのベッドから落ちたことは

  一度もありません」

鈴「私が落としちゃうかもしれないじゃないですか」

完「そのときは一緒に落ちましょう」

鈴(心中!)

完「あと、母は防音室で眠りますが今夜は禁欲ということで」

鈴「ぼ、防音室?」

完「父が弟と同じ体質ですから…その…声が」

鈴「ああ…なるほど…でもそれで防音室ですか…」

ふたりでベッドに腰掛けて話していると、

完が壁掛け時計の時刻に気づいた。

完「もうこんな時間ですか。パソコンは終了して

  そろそろ僕たちも寝ましょう」

鈴「はい」

狭いベッドにふたりでもぐりこむ。

必然的に二人の体は密着することになる。

鈴「息子さんこんばんは」

完「おやすみなさい」

鈴「うーさーぎーさーーん」

鈴の手が完の股間にのびる。

完「ダメです。下手にさわると悪化します」

鈴「私の看病じゃダメですか?」

完「良すぎてダメです」

鈴「どっちなんですかそれ!?」

完「どっちにしてもダメです。さあ、寝ますよ」

鈴「うさぎさんのケチ…意地悪……」

完「もう夜遅いんですから寝ますよ草餅さん」

鈴「ぶーぶー」

完「ああ草餅さんが豚になってしまわれた…」

鈴「違いますよ!ブーイングです!」

そんなとりとめのない会話をしながら

ふたりはいつしか眠りに落ちるのだった。