某医療機関での日常

現代医科学恋愛ファンタジーというわけのわからないジャンルの創作文置き場。 小説というカタチを成していないので読むのにいろいろと不親切。たまにR18。 初めての方は「世界観・登場人物紹介」カテゴリを一読の上でお読みください。

情技での日常

マカポー「できたでござるー!!」

(国際医療福祉機関礼英 職員寮 深夜)

マカポーは自室のPCでユカリンを描いていた。

それがたった今できあがったのである。

ユカリンというのは、イミテーションボーカリスト

最も人気のあるキャラクターである。

それゆえ描き手も多い。

マ「これぞ至高のユカリン…今までで最高の出来!!」

マカポーは興奮しながらPixi(ピクシィ)のウェブページを開いた。

ユカリンの絵を投稿するためである。

マ「情報入力…題名ユカリン、

  説明などノーセンキュー!投稿!」

マカポーはPixiにユカリンを投稿すると、

ツイッパーにも報告し、

マ「あとは野となれ山となれィ!」

と言いながら眠りについた。

翌朝。

(国際医療福祉機関礼英 情技 技術室)

長瀬「マカポー、ユカリン見たぞー」

マ「見てくれたでござるか!」

長瀬「ブクマ余裕!コメントしといたからあとで見て」

マ「長瀬は神様か!神はここにいたか!」

ユカリンのように描き手の多い絵は、

そこそこ上手くても他に埋もれてしまい、

Pixiのようにユーザーの多いサイトでは

見過ごされてしまうことも多い。

マカポーの絵はブックマーク、いわゆる

お気に入りに入れられることは多かったが

ランキング等に載ったことはなかった。

「そこそこ上手い」のである。

了「はーどっこらしょっと…」

長瀬やマカポーとは向かいの席の了が腰をおろす。

了「ああ…心配だ…」

長瀬「またかよ」

マ「あとは野となれ山となれって言ってたジャマイカ

了「兄さん天然だから何やるかわかんないんだよ…」

了の心配ごとは、今旅行中の完のことである。

青木「おつかれー」

青木はデータの入ったUSBメモリを手に戻ってきた。

青木「あ、マカポーユカリン見たよー」

マ「神が!神はここにもいたか!」

青木「透明感のある絵だね。オレああいうの好き

   …ってブクマコメントに書いといた」

了「ネタバレじゃんw」

青木「ごめん」

マ「ええんじゃあええんじゃあ、ブクマしてくれてその上

  コメントまで…長瀬と青木は神様じゃあ…」

了「ごめんオレ見てない」

長瀬「ツイッパーからリンク貼ってあるよ」

了「あとで見るわ」

マ「今回のは自信作でござる!しかしオレはまだまだ

  至高のユカリンを目指して描き続けるでござる!」

マカポーは闘志に燃えていた。

ロッソ「青木先生ー、栄さんが呼んでますよー」

青木「はーい」

栄(えい)というのは情技に入院しているピアノ教室の先生だ。

聴覚で入院し、しばらく経つ。

なので補助装置も小型になり、

起きている間中使用できるようになっていた。

(国際医療福祉機関礼英 情技 廊下)

青木「あ、栄さん」

栄「青木先生、頼まれていた物できました」

青木「ホントですか、助かります。あとでお礼します」

栄「いえいえ、楽しかったです。

  主旋律にコードつけただけですけど」

青木は栄から紙の束を受け取ると、

青木「めんどくさーい…♪」

と歌いながら技術室に戻っていった。

(国際医療福祉機関礼英 情技 技術室)

青木「栄さんがめんどくさい歌のコード譜作ってくれたー」

了「おおー」

長瀬「これで堂々とギターかキーボード募集できるな」

マ「今のままで十分だと思うのダガ」

青木「さすがにベースとボーカルとドラムだけじゃ」

了「中間が足りないよなあ」

鈴木「何の話してるの?」

仕事とは全く関係ない話をしている時に

先輩に声をかけられ、4人はあわてた。

鈴木「ベースとボーカルとドラムがどうかした?」

そこまで聞こえていたのなら話は早い。

青木「バンドのメンバー募集してるんですよ」

長瀬「総合病院の待合室の掲示板で」

鈴木「そんなところに貼っても情技の人には伝わらないでしょ」

青木「そういえばそうだった…」

了「かといって何か自由に掲示できるところって他にないんですよね」

鈴木「確かにねぇ…で、ギター募集かあ…」

青木「鈴木さんギター弾けます?」

鈴木「学生の頃にバンドやってたよ」

長瀬「バンドやりませんか!?オレはバックダンサーで」

マ「拙者はエアキーボードで」

了「長瀬はともかくマカポーそれww」

鈴木「いいねえ、ちょうどギターだったからマッチだね」

青木「やったー!!」

長瀬「でも歌はこんなんですけど」

長瀬がコード譜を差し出した。

鈴木「なにこれwwめんどくさーいwww」

マ「今年のマツリに間に合うんじゃナイカ?」

マツリとは。

機関での秋祭り「秋桜祭(しゅうおうさい)」である。

腕のある者は講堂で思う存分披露し、

医師も患者もなく盛り上がる祭りである。

祭りの後にはスタッフの打ち上げも待っている。

鈴木「いいねえこれ秋祭りにやろうよ」

了「歌詞が不適切でなければw」

鈴木「いいんだよ楽しければ」

青木「鈴木先輩がそう言うなら」

長瀬「鈴木先輩がそう言うなら」

マ「鈴木センパイ責任重大ダナ」

鈴木「やめてよ~」

鈴木は笑った。

鈴木「若い人たちに混ざってやりたいだけなんだから」

如月「何?何の話?」

室長までもがかぎつけてきた。

長瀬「今度の秋祭りにバンド演奏やろうかと…」

如月「バンドといえば琉球貨物が来るよ」

青木「琉球貨物!夏しか活動しないあのバンド!!」

マ「同じステージに立てるなんて奇跡ダナ」

青木「どうしよう緊張してきた…」

如月「大丈夫大丈夫、琉球貨物はトリだから」

トリ、すなわち最後である。

如月「ちなみに機関長はペットボトル大合奏やるって」

了「そんな計画がすすんでいたのか…」

如月「栄さんもピアノ弾くし、楽しみだね」

了「栄さんも出るんですか!?」

如月「もう何回も外泊してるし、もうすぐ卒業記念ってことで」

青木「栄さんいなくなっちゃうのか…」

青木は肩を落とした。

如月「こらこら、おめでたいことなんだから」

如月は青木の背をぽんぽんとたたいた。

如月「バンドの音響は問題ないよ。

   あのポスターが貼られた日から

   機関長が用意してたし」

青木「本当ですか!?」

青木の顔がぱっと明るくなった。

如月「バンドのことになると表情豊かだね青木先生」

青木「そうですか?」

元のとぼけた顔に戻る青木だった。

如月「あれでしょ?あのめんどくさい歌でしょ?」

マ「バレテーラwww」

如月「機関長絶賛してたよ、若いっていいねーって」

その時、にわかに廊下がさわがしくなった。

ピアノ「大丈夫ですか!?ビリーさん!!」

如月「なにがあったの?」

ビリー「」

言語で入っていたビリーは、装置をはずしていた。

その場に倒れ込み、申し訳なさそうに頭をかいていた。

やがて起きあがると、スケッチブックにマジックで

「じぶんでじぶんのスリッパふんでころびました」

と書いた。

如月「装置つけてたらタダじゃすみませんよ」

ビリー「(深々おじぎ)」

ピアノ「スリッパはやめたほうがいいかもしれませんね。

靴のサイズはわかりますか?」

ビリーはスケッチブックに

「26.5」

と書いた。

ピアノがその場から立ち去り、ナースステーションに向かった。

マ「Don't worry.You or She or It will be fine.」

マカポーが「心配ないさ」と声をかけると、

ビリーはマカポーとハグした。

了「こういう時のマカポーかっこよすぎ」

マ「いつもはヘタレだと申すカ」

長瀬「だからおまえはドコで日本語覚えたんだよ…」

ピアノが戻ってきて、スニーカーをビリーに差し出す。

マ「Please wear these shoes.」

ビリーはスリッパを脱いでスニーカーを履いた。

如月「スリッパも禁止にしたほうがいいかなあ…」

元より如月が廊下で派手に転んだことで

ナースサンダルを除くサンダルは禁止になっていた。

如月「あんまり入所者の服装にうるさくしたくないんだけど

   こういうことが今後あると大変だからね。

   ピアノさん、入院時の心得に書き加えておいて」

ピアノ「はい」

ピアノは再びナースステーションに戻っていった。

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(国際医療福祉機関礼英 情技 技術室)

青木「なにこれ……」

青木は今日とってきたばかりの基礎データを見ていた。

了「どうした青木」

青木「この人脳波変だよ、寝てるのに起きてる」

了「どれどれ、うわほんとだ」

脳波の基礎データは患者に鎮静剤を打って

眠った後に測定する。

そこには安定した睡眠の波形が写るはずなのだが

この患者に限ってそうではなかった。

青木「最終行きかなこの人…」

了「総合かもよ」

鈴木「どれどれ、あーあーこれは最終じゃない?」

長瀬「最終の何科ですか」

鈴木「精神科」

情技には、まれに精神的な原因で感覚器官を

やられてしまった人間が来るのだ。

自家中毒である。

ここまで来てしまうと、総合ではなく最終になってしまう。

マ「…幻聴カ?」

長瀬「かもしれないな」

青木「聴覚で来たんだよこの人。何も聞こえないって」

了「何も聞こえてないのにこの脳波はおかしいな」

鈴木「最終にまわす?」

青木「その前に患者の様子見てきますわ」

青木はひとりで該当の患者の部屋へ行った。

(国際医療福祉機関礼英 情技107号室)

青木「失礼します」

椎(しい)「先生たすけてください!この装置をつけると

  悪口が聞こえてくるんです!

  部屋から一歩も出てないのに…」

青木「じゃあ装置はずしましょうか」

椎「でもそうすると何も聞こえないんです…」

青木「悪口を延々聞かされるよりはマシでしょう」

椎「この部屋何かいるんですか!?」

青木「貴女のほかには何もいませんよ」

椎「嘘!嘘よ!!」

患者は錯乱していた。

如月「ちょっとごめんねー」

如月がプリモとともに注射台を持ってきた。

プリモ「ここに腕をおいてください」

椎「悪口が聞こえなくなるお薬ですか?」

如月「そうです。これからしばらくの間ゆっくり休めますよ」

椎「私…寝ても寝ても寝た気がしなくて…」

如月「この部屋よりよく眠れる部屋にご案内しますから。

   眠っている間にすぐ済みます」

プリモ「ちょっとチクッとしますね~」

プリモは椎の腕に注射をした。

注射したのは速効性の睡眠薬で、

青木がデータを取る時に投与したものより遙かに強い。

青木「装置はずしますね」

椎「はい…」

青木が装置をはずして椎をベッドに横たえた。

如月「ゆっくりおやすみなさい」

青木がクリップボードにとめられた紙に

如月のセリフを書いて椎に見せた。

椎は少し安心したような顔を見せたあと、眠りについた。

如月「はい、ベッド移動ね。もしもし卯月所長?」

如月は最終の所長にPHSで電話をかけていた。

如月「ひとりそちらの精神科に向かいます」

卯月「208号室入れといて」

如月「わかりました。青木くん、最終の208号室だって」

青木「はい」

青木はプリモとロッソをしたがえて

椎のベッドを最終に移動しに行った。

了「やっぱり最終行きか…」

廊下で見ていた了がつぶやいた。

マ「エライコッチャだな」

長瀬「えらいこっちゃはマカポーの日本語だ」

了「最終の精神科って総合と何が違うんだろうな…」

総合病院の精神科には入院施設がない。

主に投薬治療を中心にした患者が外来で来るだけである。

一方、最終の精神科は防音個室がひしめきあっている。

椎はそこに入れられることになるのだ。

(国際医療福祉機関礼英 情技 技術室)

了「どうだった?」

青木「防音個室に入れられてた」

長瀬「怖ぇ~…」

マ「最終の防音個室ってドンダケなんだよ」

了「あ、メールだ」

送信者:中畑優

件名:無題

本文:性欲を持て余す

了「こんな時に爆破予告ー!」

マ「oh year」

長瀬「散れ」

青木「仲良くていいねえ」

(某県郊外のマンション 803号室)

了「ただいまー」

優「脱ぐな!」

了「えー…」

優「くんかくんかすーはーすーはー、今日も暑かったねえ」

了「暑かったんだから着替えさせて…」

優「許す」

了は部屋に戻るとTシャツとトランクスに着替えた。

夏場はこれがパジャマである。

了「腹へった~」

優「今日は豚キムチですよ」

了「やった~」

優「ニンニクきいてますよ」

了「食べたあとブレスケア飲まなきゃ」

優「性欲を持て余す」

了「今日情技から最終に移った人がいてさ」

優「そんなのあるの?」

了「あるんだなこれが」

ダイニングテーブルで豚キムチをつつく夫婦。

了「それはおいといて、めんどくさいの歌ライブ決定したよ」

優「嘘!?いつどこで?」

了「礼英の秋祭りで」

優「ワーオ楽しみでござる」

了「ござる口調にされるとマカポー思い出すからヤメテ」

優「性欲を持て余す」

了「優さんのヘンタイ!」

優「おう、望むところだ」

了「望まないでww」

優「私はお風呂済んでるから…そのままでもいいのよ」

優は夕飯の席を立つと、Eカップの胸に夫の顔をうずめた。

優「今夜は寝かせないぜ」

了「明日休みだからいいけどね…でもシャワー浴びたい」

優「早くね。ぱふぱふ

了「ぱふぱふ~」

了の顔は優の胸の谷間に埋まって幸せだった。

だがしかし。

(某県郊外のマンション 803号室 寝室)

了「ふあああああん!!」

シャワーを浴びた直後にセクハラに遭うのである。

了「あっ、あう、兄さん、大丈夫かな…」

優「大丈夫じゃない?鈴ちゃんいるんだし」

了「はあ、はあっ、もう、許して」

優「ダーメ」

優は了の乳首に吸いついて舌で愛撫する。

了「あっ…は…イヤンもう…優さんのエッチ…」

優「ヘンタイ魔神ですから」

夜は始まったばかりだった。