某医療機関での日常

現代医科学恋愛ファンタジーというわけのわからないジャンルの創作文置き場。 小説というカタチを成していないので読むのにいろいろと不親切。たまにR18。 初めての方は「世界観・登場人物紹介」カテゴリを一読の上でお読みください。

有頂天高原旅行記 4

(有頂天高原 森と渓流の散歩道)

鈴「うわあ…なんだか大自然って感じですね…」

完「普段より涼しく感じますね」

鬱蒼としげった森の中、木で整備された歩道を歩く。

完「雨が降らなくてよかったです。すべりやすくなりますから」

鈴「本当ですね…」

完「しっ…見てくださいあの蝶」

鈴「わあ…綺麗……」

完「山の中でしか見られない蝶ですねきっと」

青い蝶は花にとまり、羽をとじてしばし花の密を吸っていた。

鈴「写真、写真…私の光学12倍ズームでなんとか…」

完「草餅さんに任せます」

鈴「ええっ…自信ないです…」

完「じゃあ、カメラ貸してください」

完が蝶をズームでピントをあわせ、鈴のカメラで撮る。

完「いかがでしょう」

鈴「お見事です!これならフェイスブロックにも載せられますね!」

完「同僚に嫌味書かれそうなのでイヤです…」

鈴(私はツイッパーにうpしよう…)

完にツイッパーをやっていることは言わない鈴だった。

鈴「そんなに意地悪なんですか?うさぎさんの同僚さんって」

完「意地悪というか悪友というか…頭のキレる連中です」

ふたりきりで森を歩く。

鳥のさえずりや渓流の音が響く。

昼食はコンビニで調達していた。

サンドイッチやおにぎりをベンチで食べる二人。

ゴミは持ち帰りましょう の看板。

鈴はことあるごとにカメラを構え、

森のシーンを切り取っていった。

完「なぜその看板を…」

鈴「このリスさんかわいいじゃないですか」

完「なるほど…」

渓流の森を一周して戻るコースだったが意外と長かった。

途中立ち止まって景色を満喫していたこともあった。

そこにはイーゼルを立てて渓流を描いている人もいた。

よほどこの景色に魅入られたのだろう。

鈴も写真をバシバシ撮っていた。

完も何枚か写真を撮った。

鈴「家のパソコンの壁紙これにします!」

完「いいですね」

完たちは絵描きの邪魔にならないようにそっと去るつもりだったが

「シャッター押しましょうか?」

と声をかけられた。

鈴「あ、お願いします」

と鈴がデジカメを手渡す。

完と鈴は渓流を背景にして並んだ。

「はい、チーズ!」

絵を描く人だけあって、よく撮れた写真だった。

鈴「ありがとうございます!」

「どういたしまして」

絵描きが笑顔で鈴にデジカメを手渡す。

ふたりはまた歩き始めた。

鈴「木漏れ日がキレイですね…」

完「そうですね…」

ふたりの他に誰もいない森。

木陰でふたりは触れるだけのキスをした。

完「今日は温泉宿に泊まります。家族風呂もありますよ」

鈴「家族風呂♪家族風呂♪」

完「その歌はなんですか?」

鈴「作詞作曲柏木鈴、家族風呂の歌です」

完「続きはないんですか?」

鈴「ありませんすみません…」

鈴はうなだれた。

完「続きがないなら延々と家族風呂♪と歌い続ければ…

  すいません音程はずしました」

鈴「…………」

完「いいんですよ、音痴って言っても」

鈴「いえ、ものの見事にはずれてたので…」

完「思わず無言になってしまったのですね」

鈴「すいません」

完「いいんです。僕は国歌独唱で音程はずす音痴ですから」

鈴「ええっ!?」

完「驚きましたか?」

鈴「国歌ってあの、君が代ですよね?」

完「そうです君が代です」

鈴「ちょっと歌ってもらえませんか…?」

完「勘弁してください」

完は頭を下げた。

鈴「わわっ、じゃあいいです…」

完「好きで音痴に生まれたわけじゃないです…」

鈴「そんなことわかってますよ!大丈夫です!

  音痴で死にませんから気を落とさないでください!」

完「死にはしませんが…カラオケは遠慮したいです」

鈴「行きませんから大丈夫ですよ!」

完「草餅さんはカラオケお好きですか?」

鈴「え?す、好きですけど自分からはあまり…」

完「誰かに誘われて行く程度ですか」

鈴「はい」

完「僕が巻き込まれた時はマラカスでも渡してください」

鈴「そんな…一緒に歌いましょう…?」

完「つられてどうなっても知りませんよ」

鈴「わたしがつられてしまえばどっちが音痴か

  わかりませんから大丈夫ですよ!」

完「草餅さんがひとりで歌った時にバレますよ」

草餅「あうう…」

完「……それにしても」

完はその場に立ち止まり、深呼吸した。

完「いい景色ですね」

鈴「はい!」

ゆたかな自然はふたりを日常から切り離す。

ふたりきりで満喫する自然は贅沢を感じさせた。

まるでふたりのためだけに、ふく風、揺れる木の葉。

満ち足りた気分で二人は渓流散歩を終えた。

(有頂天高原 温泉宿 さとや)

チェックインをすませて、たたみの部屋でくつろぐ二人。

また鈴のカメラのプレビュー画面で写真を見ていた。

完「渓流の写真、たくさんとりましたね」

鈴「縦にも横にも撮りました!」

完「そういう写真は母が喜びますので是非送ってください」

鈴「おおお母様に見られちゃうんですか!?」

完「有頂天高原を回ったら、僕の家に招待しようと思っていました」

鈴「うさぎさんのお家!?」

完「母に挨拶してやってください」

鈴「あwせdrftgyふじこlp」

完「大丈夫ですよ、取って食ったりしませんから」

鈴「こ、心の準備が…」

完「何か手みやげを選んでいきますか?」

鈴「はい!そうしてください!」

鈴は夕食の味がわからなかった。

布団の敷かれた部屋に戻ってくると、

完「今日はコンタクトレンズつけたままお風呂に入っていいですか」

鈴「えっ……じゃあ、私も……」

完「お風呂につかりながら星を見たいので」

鈴「お背中流しましょうか?」

完「草餅さんはお仕事する気満々なんですね」

鈴「うさぎさんの背中だから洗いたいんです!」

完「そ…そ、そうですか」

直球で来られると弱い完だった。

完は家族風呂をのぞき込むと

完「今日も星がきれいですよ、ほら」

鈴「わあー……」

満天の星空。今にも星がこぼれ落ちて来そうだった。

完「早く入りましょう」

鈴「はい!」

ただし脱衣所では背中合わせなのである。

家族風呂は、ヒノキの風呂窯だった。

源泉かけながしで、たえず温泉水が流れ落ちている。

その温泉水を桶ですくい、体を流すと

完「最初はグー」

鈴「えっ?えっと、じゃんけんぽん!」

じゃんけんの結果は完の勝利だった。

鈴(うさぎさん乳首見えてる乳首!)

完「じゃ、先に洗ってもらえますか」

鈴「はい!」

鈴は張り切って完の背中を洗った。

鈴(あれ…意外とうさぎさんの背中大きい…

  着やせするタイプなのかな…)

そんなことを思いながら、満遍なく完の背中を洗っていく。

鈴「かゆいところはありますか?」

完「特にありません。もういいですよ、ありがとうございます」

鈴「じゃあ、流しますね」

温泉の湯を桶ですくい、完の背中にかけてゆく。

シャワーもついていたが、あえてそうした。

完「それでは草餅さん、背中を向けてください」

鈴「はい…」

完(小さい背中…僕が守ってあげなきゃいけないんだ)

完は使命感をおぼえつつ、鈴の背中をそっと洗った。

鈴「もうちょっと強くても大丈夫ですよー?」

完「そうですか?」

完は少しだけ力を加えた。

鈴「ちょうどいいです」

完「ありがとうございます。どこかかゆいところはありますか?」

鈴「いえ、特に…」

完「では、流しますね」

完は鈴にならって温泉の湯を鈴の背中にかけた。

鈴「人に洗ってもらうのって気持ちいいですよね」

完「僕なんてその道のプロに洗ってもらうんですから最高です」

鈴「プロだなんて…情技ではあまり入浴介助はしませんが」

完「それでもプロはプロです」

ふたりでとなりあって湯船につかる。

やはり大事なところはタオルでガードしたままだ。

鈴(このおなかみられたくないよお…!

  でもうさぎさんの乳首は見たい!)

そんなことで逡巡している間、完は星空を鑑賞していた。

完「きれいですね…星が降ってきそうです」

鈴「ほんと…ですね…」

煩悩を忘れ去るひとときだった。

湯上がりに。

コンタクトレンズをはずして裸眼になったふたりは

布団の上でくつろいでいた。

完「じゃあ、腹筋しましょうか」

鈴「えー!」

完「冗談です。でも今夜は禁欲しましょうか」

鈴「えっ」

完「我慢くらべです。先に手を出したほうが負けですよ」

鈴「口は出してもいいんですか?」

完「キスはいいんです、キスは…あっ、でも

  猛獣みたいなキスはダメですよ」

鈴「猛獣…私そんなに野生的ですか…」

完「草餅さんがあんな狼さんだなんて思いませんでした」

鈴「初日のコトは忘れてください…」

顔を赤らめる鈴だった。

完は布団に入ると、鈴の布団のほうを向いて寝た。

完「眠るのには少し早い時間ですが…」

鈴「我慢くらべ…我慢くらべ…」

鈴は布団の上で正座してぶつぶつとつぶやいていた。

完「草餅さん、大丈夫ですか?」

鈴「えっあっはい!おやすみなさい!」

鈴も自分の布団に入ると、完のほうを向いた。

鈴「…うさぎさんのお母様ってどんな人なんですか?」

完「名前を和(なごみ)といいます。名前のままの人です」

鈴「ご趣味は…」

完「ハムスターの飼育です。絵手紙も描くようです」

鈴「ハムスター!かわいいですか?」

完「かわいいですよ。よく母の手の上に乗ってます」

鈴「うさぎさんの手には乗らないんですか?」

完「乗せてもらったことはありますが、

  うごきまわるので落としそうで危ないです」

鈴は話しながら少しずつ完のほうへ寄ってきていた。

完「当のハムスターは僕の胸の高さから落ちても

  平気で歩き回ってるんですけどね」

鈴「すごいですね!」

完「あれ?草餅さんさっきより近くなってませんか?」

鈴「気のせいです」

鈴(ああ…襲いたい…うさぎさん食べちゃいたい…)

またしても煩悩がわき起こるのだった。

しかし、今度は完のほうから寄ってきた。

そして、鈴の頬に口づけをする。

鈴「うおおさむさんっ」

完「このくらいのキスはセーフです」

鈴「どのあたりからダメなんですか…」

完「僕が草餅さんを本名で呼ぶようになったらアウトです」

鈴「き、キビシイ…」

布団の中では鈴の指がわきわきしていた。

完の脇の下をくすぐりたくて仕方ないのである。

鈴「そうだ写真撮ろう!」

鈴は眼鏡をかけてバッグからデジカメを取り出した。

完「星空の写真でも撮るんですか?」

鈴「星空も撮りますがうさぎさんも撮ります」

完「僕のことはもういいじゃないですか」

鈴「その布団に寝転がってるところを撮ります!」

鈴は家族風呂で星空を何枚か撮ったが、

うまく撮れなかった。

鈴「うさぎさん…」

完「はい?」

鈴「星空がうまく撮れません…」

完「あ、それはデジカメの設定ですね」

完は起き上がり、手渡された鈴のデジカメを少しいじった。

完「これで試してみてください。それと、

  この部屋の電気も消しましょう。撮影の邪魔になりますから」

鈴「はい」

設定の整ったカメラで星空を撮る鈴。

鈴「きれいに写りました!」

完「本当ですね。これは記念になりそうです。

  僕も自分のカメラで撮っておこうかな」

完も自前のデジカメで星空を撮る。

鈴「わ!うさぎさんのほうが星がたくさん写ってます!」

完「カメラの性能でしょうか」

鈴「その写真あとで送ってください!」

完「わかりました」

家族風呂からもどってきたふたりは、

今度は同じ布団に寝転がった。

完「…あの」

鈴「はい?」

完「手出し無用ですよ?」

鈴「目の前に浴衣のうさぎさんがいるというのに

  さわれないこのくやしさ!記憶に焼き付けておきます!」

完「大丈夫ですか?眠れそうですか?」

鈴「眠れそうにないです…」

完が鈴の頭をなでた。

完「よしよしいいこだから寝ましょうね~」

鈴(うさぎさんやさしい!!)

完「今日はよく歩いたから、よく眠れると思いますよ」

鈴「う…うさぎさん、キス…」

完「どうぞ」

暗くてどこが唇かわからない。

手探りで唇を探しあて、そっとキスをする。

完「そのくらいのほうが、僕は好きです」

鈴「深いのは苦手ですか?」

完「あまり激しくされると酔っぱらってしまいますので」

鈴「今夜も酔いましょう!」

完「だーめーでーすー」

鈴「うーーわんわん!がるるるる…」

完「わっ猛獣が出た!猟銃で撃たなきゃ!」

鈴「撃たなきゃってヒドイ…」

完「撃たれたくなかったらその爪と牙はしまっておいてください」

鈴「そんなのありませんよぉ」

完「じゃあその指と舌はしまっておいてください」

鈴「ううう…」

完「あなたはだんだん眠くなる…」

鈴「ギンギンです」

完「最終に行って麻酔取ってきますか…」

そんな話をしながら、夜はふけてゆく。

完「明日は鈴さんの好きなようにしていいですから」

鈴「本当ですか!?」

完「ベッドも…ダブルでとってあります」

鈴「じゃあ今日は禁欲します!」

鈴は寝ながら完に抱きついた。

柔らかな肢体が、完にからみつく。

完「鈴さん」

鈴「はい?」

完「禁欲できてません」

鈴「これだけでもダメなんですか!?」

完「僕の体が反応してしまいました」

完はつい最近まで童貞だったのである。

鈴「ごごごめんなさいすみません…」

謝りつつ、なかなか離れない鈴。

完「いいえ…このくらいはじっとしていてもらえれば」

鈴「動いたらダメなんですか?」

完「ヘタに動かれると刺激されてしまいますので」

鈴「うさぎさんって…敏感なんですね…」

完「慣れていないだけです…これから慣らしてください」

完が鈴を抱きしめた。

確かに完の下半身に熱を感じる。

鈴「完…さん?」

完「うさぎです」

鈴「下の方に息子さんがいらっしゃいます!」

完「元からです」

鈴「息子さんがこんばんわって言ってます!」

完「親です。おやすみなさい」

鈴「…眠れるんですか?」

完「草餅さんが妙なマネをしなければきっと…」

鈴「………………」

しばし無言。

やがて、完のほうから安らかな寝息が聞こえてくる。

鈴(う…動けない!)

完に抱かれたままの鈴はうかつに動けなかった。

夜はすぎていく。

鈴もいつしか眠りについた。

旅はまだ続くのである。