某医療機関での日常

現代医科学恋愛ファンタジーというわけのわからないジャンルの創作文置き場。 小説というカタチを成していないので読むのにいろいろと不親切。たまにR18。 初めての方は「世界観・登場人物紹介」カテゴリを一読の上でお読みください。

高校兄弟 6

中畑一が渡米して、2ヶ月が過ぎようとしていた。

中畑兄弟は夏休みを終えて、学校生活を送っていた。

完「…嫌な予感がする」

了「え?」

完「お父さん、アメリカで大丈夫かな」

完の予感は的中した。

(昼下がり 中畑家 リビング)

和「えっ、熱!?」

和は国際電話で一の同僚と会話していた。

和「それで、無事なんですか!?」

同僚「今のところは落ち着いていますが…」

和「本当に大丈夫なんですか?」

同僚「それが…」

一は原因不明の発熱の後、失明していた。

和「…冗談ですよね?」

和はふるえる声で言った。

冗談ではなかった。

和はN空港ではじめて、一が視力を失ったことを知る。

和「おかえりなさいお父さん」

一「ただいまぁ」

一は笑顔だ。

しかし、その目はどこを見ているのかわからない。

同僚に手をひかれ、ここまで帰ってきた。

一「そういうわけだから、これから僕の目になってね和さん」

和は泣き出した。

人目もかまわずに一に抱きつき、大声で。

一「ごめんねぇ」

一が悪いわけではないのだ。

しかし、謝ることしかできなかった。

(Q都 電車内)

一「うー怖い怖い、和さんそこにいる?」

和「いますよ、和さんここにいますよ」

一「あれだね、見えないとどこにつれていかれるかわからないよね」

和「大丈夫よ、私ひとりじゃないんだから」

同僚「すみません…こんなことになって…」

和「貴方こそお仕事大丈夫なんですか?」

同僚「中畑さんを送りとどけるように命じられましたので」

和「そうよ、いったい何の研究してたのよ」

一「そうだなあ、相互依存についてかな」

和「変なウイルスに感染したんじゃないの?」

同僚「原因は不明で…」

一「まあいいじゃないの、おかげで面白いこと教えてもらえたし」

和「面白いこと?」

一「僕たちが住んでる某県内にある医療のテーマパークに

  ご招待されちゃったんだ」

同僚「礼英はいいですよ」

和「れいえい…?」

(某県 中畑家 リビング)

一と和が家に着く頃には、完と了も帰宅していた。

完「お父さんおかえりなさい!」

一「おお、完だね、ただいま」

完「? お父さんどこ見てるの?」

一「うん、見えないんだよどこも。

  お父さん失明しちゃった」

完は目の前が真っ暗になった。

完「うそだ…」

了「ほんとに…!?」

一「うん、真っ暗。なんにも見えないやあはは」

完「あははじゃない!」

完は壊れた。

完「ちゃんと見てよお父さん!僕の顔ちゃんと見てよぉ…!!」

完は一に抱きついて泣き叫んだ。

一「やれやれ困った坊やだなぁ…」

完「坊やじゃない!お父さん…お父さん…」

完は両手で一の顔をつかまえて、自分のほうを向けようとする。

完「お父さん!」

しかし、一の目は焦点が合わない。

完「僕のこと…見てくれないの…」

完は絶望した。

一「礼英に行けばきっとなんとかなるから」

完「礼英…あの最先端医療の?」

父はそんなところに世話にならなければいけないのか。

了「兄さん、もうやめよう?」

了は完を父から離そうとした。

完は力なく父から離れた。

そして言った。

完「アメリカが悪いんだ…全部アメリカのせいだ…」

一「やめなさい完」

完「アメリカのせいだ!」

一「やめなさい!」

一が一喝すると、完はその場に泣き崩れてしまった。

そんな完を見ていたら、和は泣く気も失せてしまった。

和「完、私のかわりに泣いてくれるのね…」

完は、この日を境に人がかわってしまった。

(放課後 某県立中央男子高 3-A 教室内)

小野「中畑ぁー」

小野が呼んでも返事ひとつない。

完は小野の横をすり抜けて教室から出ていく。

小野「中畑…どうしたんだ…?」

冷徹な瞳。

この世界のすべてを憎むような、

憎悪に満ちたまなざし。

完(治すんだ、かならず…僕の手で、お父さんを)

完は進路を決めた。

(国際医療福祉機関 礼英 情技107号室)

如月「このたびは大変お気の毒でした」

一「人生なにが起こるかわかったもんじゃないね」

一はあちこちで講演などしていたため、

如月にとって全く知らない人間というわけではなかった。

如月「あの講演がもう聞けないとなると寂しくなります」

一「引退しちゃったからねぇ」

如月「ところでどうでしょう。見えます?」

一は情技で視力補助装置をつけていた。

一「うん。見える見える。如月さんやっほー」

如月「やほー☆」

ふたりはハイタッチした。

一「一日4時間か…夕食の時に使えるように、

  今日はここまでにしておこうかな」

如月「食事介助ならいくらでもしますよ?うちのナースが」

一「いやいや、それはそれは」

一は陽気に笑うと、付け加えた。

一「うちの長男が来たら、追い返してください」

如月「どうしてですか?」

一「あの子、とんでもない進路選ぼうとしてるんです。

  受験勉強大変なんだから、ここに来るヒマがあったら

  勉強してなさいってことですよ」

如月「あらあら、つれないお父さんだこと」

完の進路。

玲央医大の複数学部志願。

某県立中央男子校でも前代未聞である。

(某県 中畑家 2F 完の自室)

了「あ…っ」

いつもの接触

だが、完の様子が違っていた。

痛いほど抱きしめて、了の首筋で呼吸する。

完「お父さん…お父さん…」

完にとって、了は父の代理だった。

その体質、その匂い。

完「勉強しなきゃ」

完は充電が完了すると机に向き直る。

完「了、いつもありがとう」

了「いいけど…兄さん本気で玲央の2学部併願するの…?」

完「するよ。僕はお父さんの後をついで、

  お父さんを治すんだから。

  誰にも触らせない、お父さんは僕が治す」

決意は固いようだった。

了「じゃ…オレも部屋に戻るね」

完「うん」

了は完の変化に気づいていた。

気づいていたからこそ、いつも通りに振る舞った。

了(兄さん…大丈夫かな)

了は完を心配していた。

和は毎日のように礼英に足を運んでいた。

そしてある日、一から完宛の手紙を受け取る。

完へ

お元気ですか?なんちゃって。

お父さんはこのとおり文字を書けました。

礼英での生活は退屈知らずで楽しいです。

以前から書いてみたかった小説なんか書いて

楽しく過ごしています。

お母さんと了に心配かけないようにね。

お父さんはここで完の合格通知がくるのを

楽しみに待っています。

大好きだよ。

一より

完「お父さん…」

完は涙が止まらなくなった。

その手紙は、完のお守りになった。

受験勉強も本場。

やがて迎える春の日へと、時は進む。

最終医科学研究所。

完の進路はこの頃から決まっていた。

完(絶対に治す…僕の手で)

試験はすぐそこまで来ていた。