某医療機関での日常

現代医科学恋愛ファンタジーというわけのわからないジャンルの創作文置き場。 小説というカタチを成していないので読むのにいろいろと不親切。たまにR18。 初めての方は「世界観・登場人物紹介」カテゴリを一読の上でお読みください。

有頂天高原旅行記 1

残暑も厳しい9月下旬。

中畑完と柏木鈴は、有頂天高原動物王国に来ていた。

完「向かって左手に見えるのがわんにゃんランド、

  右手に見えるのが動物ふれあいコーナーです」

鈴「猫!猫見たいです猫!」

完「じゃあ、こっちですね」

鈴(うさぎさんポロシャツも似合う…)

完と鈴は連れだってわんにゃんランドへ足を運んだ。

園内は閑散としていて、老夫婦や犬を連れた人などと

時折すれ違う程度だった。

完「すいていてよかったですね」

鈴「夏休み…って時期じゃないですしね」

係員「いらっしゃいませ」

完「猫コーナー大人2人で」

係員「600円になります」

完「これで」

完が差し出したのは、

有頂天高原ドライブマップについていたクーポン券だった。

係員「400円になります」

完は小銭入れを取り出すと、400円を支払った。

鈴(きちんとしてる…)

完「200円を笑う者は200円に泣きます。さて…」

鈴「わ~、かわいい~!」

鈴はデジカメ片手に被写体選びに夢中だ。

だが、そのスキに完ウォッチングも欠かさない。

完は、一匹のロシアンブルーの隣にすわっていた。

その背をなでる手つきに愛情がただよう。

完「さすがに代変わりしたか…」

鈴「え?」

完「子供の頃、この子を連れて帰るんだってだだをこねましてね」

鈴「そんな過去が…」

完「どうやらあのときのロシアンブルーではないようです」

もし生きていたら妖怪猫又ですね、と完はおどけた。

鈴「どうですか?記念に一枚」

鈴がカメラを構えると

完「え…草餅さんは入らな…入れないんですね」

鈴「いえ、私は入ってなくていいんです」

完「え?」

鈴「いきますよー、はい、チーズ」

完「え?」

完のとぼけた顔と、しっかりカメラ目線の猫。

鈴(よっしゃーうさぎさん画像ゲットー!!)

完「……あの」

鈴「はい?」

完「僕は写真は撮られるより撮るほうが好きでして」

そう言うとショルダーバッグからデジカメを取り出した。

完「草餅さん、はい、チー…」

鈴「うわわわわちょっと心の準備が…」

完「そうですね、どうせなら猫と一緒にうつりましょう」

完はロシアンブルーの隣から立ち上がった。

が、ロシアンブルーは完についてきてしまった。

鈴「あらら…」

係員「シャッター押しましょうか?」

完「お願いします」

完がデジカメを手渡すと、ロシアンブルーはきっちりと

ふたりの間におさまった。

係員「はい、チーズ」

デジカメを返してもらうと、写りを確認する完。

完「よい記念になります」

鈴「あっ、あの!」

完「はい?」

鈴「フェイスブロックとかに載せないでくださいね…」

完「載せませんよ。安心してください」

鈴「って、やってるんですかフェイスブロック…」

完「情報収集のためにやっているようなものですね。自分から発信はしません」

鈴「そうなんですか」

完「同僚の記事にいいね!したりするくらいで…」

鈴「どんな記事がいいね!なんですか?」

完「最近では同僚の二宮が通っているカフェの看板猫の写真です」

鈴「猫、お好きなんですね…」

完「他にも再生医療に関する興味深い講演とか…まあいろいろです」

係員「おやつの時間で~す」

係員が、ふたりにねこのおやつを配る。

係員「今日はおふたりだけなので、ちょっと多めです」

ペレット状の「ねこのおやつ」の匂いをかぎつけて猫が寄って来ていた。

完「おすわり」

鈴「犬じゃないんですから」

完「こらそこのアメリカンショートヘアー、君はもう2粒食べたんだからダメ、そこの三毛猫ももうダメ、しっ」

完が手で猫を制すると、猫たちは素直にかえってゆく。

鈴「このペルシャ猫に全部食べられました…」

完「さすがはあの猫の家系ですね…血は争えないというわけですか」

常連客のセリフである。

完「どうします?動物ふれあいコーナーいきますか?」

鈴「はい!」

(有頂天動物王国 動物ふれあいコーナー)

羊「メエ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛!!!」

子供「うわあああああん!!」

鈴「うわっあの子、羊に襲われてますよ!?」

完「洗礼です」

ほどなくして子供は親にだきかかえられ、事なきを得た。

完「ここのふれあいコーナーは柵の外から餌を与えることになっているのですが

餌をもったまま柵の中に入るとあのようなことに」

鈴「おそろしいですね…」

完「弟は毎年柵の中に入ってたんですけどね」

鈴「え!?」

完「そのたびに餌に散財していました」

鈴「そ、そんなに…」

完「ほらすごいですよ、牛の舌ってこんなにのびるんですね」

牛に餌をやりながら完は余裕だ。

鈴(牛や羊に追い回されるうさぎさんも見てみたいかも…)

完「ほらすごいすごい」

鈴「うさぎさんは柵の中へは入らないんですか?」

完「怪我はしたくないので…手元の餌が尽きたら入ります」

鈴「あ、手元に餌がなければ大丈夫なんですね」

完「その通りです」

柵の中では牛やヒツジが思い思いにくつろいでいた。

木陰で座る者、水を飲む者…

完「ほーら何も持ってないよー」

完がホールドアップで柵の中を歩きまわる。

鈴「ヒツジの毛って思ったよりゴワゴワしてるんですね…」

完「洗い立てでブラッシング済みというわけにはいきませんからね…」

鈴「きゃ!」

牛が鈴の背中に体当たりしてきた。

完「こら、僕ならともかく草餅さんに何するんだ、謝りなさい」

鈴「うう…」

しかし、なぜか続けざまに牛が鈴の背中に突進してくる。

完「草餅さん、そのバッグ!」

鈴「え?」

赤いバッグ。

完は鈴の体からそのバッグを引き離し、柵の外へ退散した。

完「あぶなかった…」

鈴「この色に反応してたんですね…」

近くの人工湖では鯉がゆうゆうと泳いでいる。

完「ボートにでも乗りますか?」

鈴「はい!」

完「その前に鯉のえさを買いましょう」

ガチャガチャ式の販売機で鯉の餌を買う。

カプセルのかわりにもなかで包まれていて、

それ自体も鯉の餌になるのだった。

鈴がちびちびと餌をやっていると、

完が豪快にガチャガチャ一回分の餌をばらまいた。

鈴「ええっ!?なにこれ!?」

鯉、鯉、鯉、鯉。

水面にクチをあけて鯉が一気に群がってきたのだ。

完「自分が人間に生まれたことに優越感を感じるひとときです」

鈴(何がうさぎさんをそうさせたんだ…!!)

(国際医療福祉機関 礼英 機関長室)

龍崎「へっくし!へっくし!…えっくし!!」

如月「龍崎さん風邪?それとも…」

卯月「風の噂?」

龍崎(あーあー今頃デート楽しんでるんだろうなー)

(有頂天高原動物王国 人工湖

鈴「いい画がとれました!」

むらがる鯉の写真は、その場のすさまじさを物語っていた。

完「あ、それいいですね。あとで送ってください」

鈴「はい!」

完「もうそろそろ宿に向かわないと…」

鈴「もう、ですか?」

完「ここから少し距離があるので…この辺で切り上げましょう」

鈴(宿…や、やど…)

鈴は生唾を飲んだ。

完「草餅さん?」

鈴「はひっ!?」

完「ひょっとしておなかすいてませんか?」

鈴「いえ、そんなことは…」

完「暑いですね。ソフトクリームでも食べますか」

足下にはソフトクリームの模型が。

鈴「おいしい~」

完「有頂天高原に来てソフトクリームを食べるのは定番ですから」

鈴は自分がソフトクリームを食べながらも、

完ウォッチングに余念がない。

まず、ソフトクリームの先端からクチをつけ、

その周りを円周を描くようになめる。

鈴も真似してみた。

確かに効率よくソフトクリームが食べられる。

完「ピサの斜塔

ソフトクリーム彫刻である。

鈴「写真撮りましょう!」

完「写真好きですね…」

ふたりは有頂天動物王国周遊を終えた。

(有頂天高原 国道)

相変わらず静かな完の車内には

ここちよい冷風が満ちていた。

鈴「ここからどこへ向かわれるんですか?」

完「ちょっと温泉地に」

鈴「有頂天高原って温泉もあるんですか!」

完「ありますよ」

(有頂天高原 湯の郷 ふじ)

鈴(うわうわ、中畑家ご一行様ってかいてある…)

完「すみません、草餅さんの名前をふせるために無理矢理

家族にしてしまいました」

鈴(家族になりたいです!!)

完「将来的には…いえ、なんでもありません」

鈴「えっ、なんですかなんですか」

完「チェックインしましょう」

呼び鈴を押すと、女将が現れた。

完「予約した中畑です」

鈴はだまって待っていることにした。

完は宿帳に記入し、部屋の鍵を受け取った。

完「家族風呂がついているんですよ」

鈴「家族風呂?」

完「部屋にお風呂がついてるんです」

鈴「え!?」

(湯の郷 月見の間)

鈴(ひ…広い…)

寮の自分の部屋とは比べものにならない広さの畳の間。

完「…あの」

鈴「はい?」

完「着替えたいので…」

鈴「手伝いますか?」

完「ここまできて仕事する気ですか?」

完は部屋に備えてあった浴衣を取り出し、鈴にも渡した。

完「部屋にきたのですから、くつろぎましょう」

鈴「お手伝いします」

完「いえ、あの…ひとりでできます…」

鈴「お手伝いします!」

鈴の指はわきわきとその時を待っていた。

鈴「友達の着替えを手伝わないなんて友情に反します」

完「え、そうだったんですか?

  女性の友達がいなかったのでわかりませんでした」

鈴「とにかくはいばんざーい!」

座布団に座った完に万歳させ、

濃紺色のポロシャツをすっぽぬく鈴。

ポロシャツの下は素肌だった。

いつも室内にいるせいで白い完の肌に、鈴は見とれた。

完「…あ、あとは自分でできますから」

鈴「そ、そうですね」

残るはオフホワイトのジーンズ。

完「…あっち向いててくれますか」

鈴「は、はい!」

鈴(うさぎさんの恥ずかしがり屋さん!!)

鈴「じゃ、私も着替えさせていただきますね」

完(僕の後ろで草餅さんが着替えてる…)

完は真っ赤になった!

浴衣を来た完は、鈴の着替えが終わるまで

鈴に背を向けて正座して待っていた。

鈴「できました~」

完が振り向くと、そこには浴衣姿の鈴がいた。

完「…………………………」

鈴「え、なんですか?」

完「あ、記念に写真撮りましょう」

鈴「私が撮ります!浴衣姿のうさぎさんを!」

完「僕だって浴衣姿の草餅さん撮りたいです…」

完は真っ赤になってしまった!

鈴「あわわわ、うさぎさん顔真っ赤ですよ?」

完「え?え?」

顔に手を当てながら鏡を見に行く完。

完「日焼けです!」

鈴(無理がある!)

完が鏡を見に行っている隙に、鈴はデジカメを構えていた。

完「じゃあ…お願いします…」

鈴「カメラのほうは見なくてもいいですよ」

完「え?」

鈴「そこの和菓子でもつまんでてください」

完「それはそれで失礼な気がするのですが」

鈴「自然体を撮りたいので…」

完「じゃあ、僕は和菓子のほうを見ていますね」

鈴「はい、チーズ!」

姿勢が良いためか、完は写真写りがよかった。

完「次は僕の番です」

鈴「私は撮らなくていいです!」

完「撮らせてくださいお願いします」

正座から深々と土下座される。

鈴「えっと…どんなポーズで…」

断りようがなかった。

完「正座してこっちを向いてくださればそれで」

鈴は姿勢をただして完と向き合った。

完「はい、チーズ」

鈴は微笑みを浮かべたつもりだったが、いかんせん表情が硬い。

それでも、浴衣の鈴の写真は完の記念になるのだった。

完「家族風呂、見ます?」

鈴「はい」

入り口と反対側の扉をあけると、そこには

有頂天高原の大自然にかこまれた岩風呂があった。

眼下には川が流れ、その音がここまで聞こえてくる。

鈴「わあ…すごいですね…」

完「これは弟にきいたんですが…」

鈴「はい?」

完「家族風呂はふたりで入るモノだと…」

鈴「ふ、ふ、ふつうはそ、そうだとおもいまs…」

完「大丈夫です。僕はコンタクトレンズをはずして入りますから

ほとんど見えません」

鈴「わっ、私もコンタクトはずしたら0.0ナントカの世界なんで大丈夫です!」

完「変なところでおそろいですね」

完は笑った。

鈴(うさぎさんの笑顔!脳内HDDに焼き付ける!!)

完「じゃあ食事が終わったら、一緒に入りますか」

鈴「は、はい…」

鈴(うう~このおなか見られちゃうのか…)

完「6時から夕食です。もうすぐですね。食堂にいきましょうか」

鈴「はい」

鈴(食後でふくれたおなかを見られちゃうのか…)

だんだん憂鬱になってくる鈴であった。

だが、その後に目にする懐石料理を見ては

鈴「おいしそう!写真とってもいいですか?」

元気を取り戻していた。

山、川の幸をふんだんに使った懐石料理は見る者を魅了した。

完「僕も写真撮っておこうかな…」

鈴「あとで送りますよ!」

完「ありがとうございます」

傍らではふつふつと小さな土鍋が音をたてている。

その下では固形燃料の炎がゆらめいている。

完「いただきます」

完は割り箸を割って料理に手をつけた。

鈴もそれにならった。

食べ終わる頃にはふたりとも満腹だった。

完「ふう…お風呂は食休みしてから入りますか…」

鈴「そうですね…おなかいっぱいです…」

完「そういえば今日たくさん写真撮られてましたね。見せてもらってもいいですか?」

鈴「はい!」

部屋に戻り、鈴のデジカメのプレビュー画面で

完は写真を見ていた。

完「ずいぶん猫撮りましたね」

鈴「猫派なんです」

完「この僕すごい間の抜けた顔してますね…」

鈴「そうですか?自然でいいと思いますが」

鈴(うさぎさんの写真ならいくらでもほしい!)

完「削除ボタンは…」

鈴「わー!わー!」

鈴が完からデジカメを取り上げた。

鈴「消させませんよ!大切な記念写真なんですから!」

完「他の人に見せないでくださいね?」

鈴「個人で楽しみます」

完「そう楽しい写真でもないような気が…」

鈴「うさぎさんがうつってるからいいんです!」

完「そういうものなんですか?」

鈴「そういうモノです!」

最後はさきほど食べた懐石料理の写真で締めくくられていた。

そのころには、ふたりとも食休みが済んでいた。

完「じゃ、お風呂入りましょうか」

鈴「は、はい…」

脱衣所で背中合わせ。

夜はまだ始まったばかりだった。