某医療機関での日常

現代医科学恋愛ファンタジーというわけのわからないジャンルの創作文置き場。 小説というカタチを成していないので読むのにいろいろと不親切。たまにR18。 初めての方は「世界観・登場人物紹介」カテゴリを一読の上でお読みください。

ドイツにて

柏崎「え…」

(最終医科学研究所 ドイツ支部 ロビー)

柏崎「はい?」

雪「で、ですから、柏崎先生がお酒を飲まないように監視しろと…所長に言われて…」

柏崎「そ、そうですか」

雪「あの、泊まるのはあのフリューゲルホテルですよね?」

柏崎「そう…です…けど」

雪「同行させてください」

憧れの美女から願ってもいないお誘い。

柏崎は二つ返事でOKした。

しかし、行く手にはあまたあるビアガーデン。

雪「だ、だめですよ、お酒はダメです」

まるで懇願するかのように柏崎を見上げる雪。

柏崎は思った。

柏崎(役得だ!)

そして言った。

柏崎「紺野さんがそばにいてくれるなら、ビールは我慢します」

雪「よかった…」

柏崎「そのかわり、お側にいない時は遠慮なく飲ませていただきます」

雪「だっ、ダメですよ!お酒はダメですよ!」

柏崎「私にビールを飲ませたくなかったら、私から離れないことですね」

雪「はい!離れませんからお酒はダメですよ!」

柏崎は調子に乗った!

柏崎「それじゃ、ホテルも一緒の部屋ですね」

雪「えっ…」

柏崎「ルームサービスぐらいご存じでしょう?」

雪「うう~…」

この光景を同盟員が見たら激怒で噴火していただろう。

雪は困ったように笑うと、

雪「わかりました。ホテルも同じ部屋でお願いします」

と言った。

柏崎「え?」

柏崎は、耳を疑った。

雪「でっ、ですから!ホテルも同じお部屋で…お願いします…」

最後のほうは消えかかるような小声で、

それでも確かに言った。

柏崎「本気ですか?」

雪「本気です」

柏崎「ひょっとして酔ってませんか?」

雪「酔ってません!あ、ほら着きましたよフリューゲルホテル」

立派な玄関口、上等なホテルだ。

飛行機で言うならビジネスクラスと言ったところか。

柏崎は入り口で止まってしまった。

雪「あの、柏崎先生?」

柏崎「いや…その…本当に同室で…?」

雪「はい!同室で!」

柏崎「ひょっとして紺野さん、ヤケになってるんじゃ…」

雪「そんなことないですよ」

雪は困ったり急かしたり笑ったりと

顔面が忙しいことになっていた。

しかし、最後に見せた笑顔を、柏崎は信じることにした。

柏崎「では、ツインで部屋をとりましょう」

雪「はい!」

柏崎「紺野さん、なんだか張り切っているような…」

雪「そ、そんなこと、こ、これは任務です、はい」

柏崎「ですよね、あはは…は…」

フロントに着くと、柏崎は流麗なドイツ語でツインの部屋をオーダーしたが、

フロント係は微笑を浮かべて

フロント「当ホテルにはツインはありません。ダブルでのご案内になります」

とドイツ語で応えた。

柏崎が泡を食っていると、今度は雪がドイツ語で

雪「それではダブルでお願いします」

と言ってしまったのだ。

ーーーーーーーーーーーー

(フリューゲルホテル1018号室)

雪「なんだかすごいお部屋ですねえ…」

柏崎「わ…、私はここで寝ます」

柏崎はソファに腰掛けて言った。

雪はといえば、懸命に言葉を選んでいた。

雪「え…と…そ…の…」

柏崎「このソファなら余裕で眠れますから大丈夫ですよ」

柏崎(さすがに同じベッドで寝るのは…いや、そうしたいのは山々なんだが)

雪は思った。

雪(こんなチャンス二度と無いんだから…!!)

雪は柏崎に密かな好意を寄せていたのだ。

確かにまたとないチャンスである。

しかし、雪は処女だった。

処女なのである(二度目)

雪「あの!」

柏崎「はい?」

雪「あ…お…お、お風呂お先にどうぞ…」

柏崎「何か緊張してませんか?」

雪「男の人と一緒に眠るのは初めてなので…」

柏崎「そうでしたか…って、え!?」

雪「初めてなので……や、やさしくしてください…」

柏崎は余裕で深読みした!

柏崎(それって…ひょっとして…)

柏崎は生唾を飲んだ。

下半身はすでに戦闘態勢だ。

柏崎「あ、は、はい、それじゃお言葉に甘えまして…」

雪「ちょ、ちょっと待ってください」

柏崎「は、はい?」

雪「私がお風呂に入ってる間に、冷蔵庫のビール飲まないでくださいね」

柏崎は調子に乗った!

柏崎「では、一緒にお風呂に入りますか?」

雪「えっ」

柏崎「冗談ですよ。約束します。ビールは飲みません」

雪「本当ですか?信じていいんですか??」

柏崎「あの、ひょっとして所長に脅されてたりしませんか?」

雪「脅されたわけではありませんが、柏崎先生を厳しく見張れと…」

柏崎「なるほど、納得しました」

雪「なにを納得したんですか?」

柏崎「いや…紺野さんが一緒に寝たいなんて私に言うわけがないなーと」

柏崎は風呂をのぞきに行った。

部屋は豪奢だが、風呂はユニットバスだ。

二人一緒に入るのは窮屈だと判断できる。

雪「そんなにおかしいですか?」

柏崎「え?」

雪「私が柏崎先生と一緒に…寝るの…」

雪は顔が耳まで真っ赤に染まっていた。

雪は雪で興奮しているのである。

柏崎「おかしいかどうかは…他の人に訊かないと」

雪「他の人?二宮先生とか矢野先生ですか?」

柏崎「そうですね、私と紺野さんじゃ美女と野獣だと言われそうです」

雪は風呂をのぞき込んでいる柏崎のすぐ後ろに立っていた。

柏崎が振り向くと、

柏崎「うわっ、すいません!」

案の定ぶつかってしまう。

雪「大丈夫です…けど」

柏崎「けど?」

雪「柏崎先生はかなりのビール好きと聞いているので…正直なところ信用できません」

柏崎「……………」

柏崎(それはつまり、一緒に風呂に入ろうということか?)

洗面所で固まるふたり。

柏崎「ええと…」

雪「お…お……お背中流します!」

柏崎「すいません、ちょっとビンタしてくれませんか」

雪「えっ」

柏崎「ちょっと夢の中にいるみたいなんで」

雪「夢…?」

柏崎「現状が夢みたいで信じられません」

雪「現実です!ドイツでビールが飲めないのが悲しいことに現実なんです!」

柏崎「いや…どっちかというともうビールはどうでもいいというか…」

雪「?」

柏崎「ほ、本当に背中流してもらえるんですか?」

雪「も、もちろんです」

柏崎(しずまれ!しずまれオレの息子!!)

雪(柏崎先生と一緒にお風呂…!!)

結局ふたり一緒に狭いユニットバスに入ることになった。

とはいえ、洗うのは背中合わせだ。

少し窮屈だが、二人はそれどころではなかった。

雪「お、お背中洗いましょう」

柏崎「はい、振り向いてもいいですよ」

雪は振り返った。

雪「背中…大きいですね…」

雪は抱きつきたい衝動にかられた。

が、それをこらえてスポンジで洗い始める。

柏崎「ひ、ヒトに洗ってもらうと気持ちいいですね」

雪「これでも看護師ですから」

柏崎「いや、そういう意味ではなくて…」

雪はいつの間にか仕事モードになっていた。

雪「どこかかゆい所はありますか?」

柏崎「いいえ、どこも…」

雪「じゃ、シャワーで流しますね~」

そう言う雪の声は看護師のそれだった。

柏崎「なんだか患者になった気分です」

雪「そうですか?…きゃあ!」

柏崎「!!」

雪が泡で滑った拍子に柏崎に抱きついてしまう。

柏崎(この背中に当たってる柔らかい感触は…!!)

雪(どうしようどうしようどうしようどうs)

そんなこんなで大変な入浴を終えると、

雪「柏崎先生、私が着替え終わるまで洗面所から出ないでください」

柏崎「正確には紺野さんの髪が乾くまでですね」

雪「そ…そうですすみません…」

雪の髪は長い。世界が嫉妬するまっすぐな黒髪である。

雪はホテルのパジャマを着用すると、その長い髪にドライヤーをかけはじめた。

騒音で二人の会話が途切れる。

柏崎はその間、念入りにタオルで髪を拭いていた。

柏崎の髪は短いので、いつも自然乾燥だ。

タオルで拭くだけで、ほとんど乾いてしまう。

暇を持て余した柏崎は、鏡に向かって髪にドライヤーをかけている雪を見つめていた。

洗面所は広く、余裕で二人で立っていられる。

鏡はヒーターがついているので曇らない。

雪はドライヤーを一旦止めた。

雪「すみません、お待たせして…」

柏崎「構いませんよ」

柏崎は非常に目のやり場に困っていた。

美しい黒髪に夢中になってしまい、

他に見たいものなど存在しなかった。

雪は鏡越しに柏崎を見ていた。

つまり、二人は鏡の中で見つめ合っていたのである。

雪「すいません、ちょっと急いで乾かしたいのでお見苦しいと思います…」

柏崎「長いと大変ですね。大丈夫ですよ」

雪「では失礼して…」

髪をすべて前におろし、ドライヤーをかけはじめる雪に

柏崎「まるで貞子みたいですね」

と茶化す柏崎に

雪「それを言わないでください…//」

雪は恥ずかしそうに応じた。

------------

柏崎「では、私はここで」

柏崎が長いソファに横になると。

雪「ダメです!ソファのほうが冷蔵庫に近いじゃないですか、私がソファに寝ます」

柏崎「紺野さんをソファなんかで寝させたら二宮と矢野にボコられますよ私」

雪の携帯電話が鳴った。

雪「ちょっと待ってください…もしもし、紺野ですが…」

龍崎「やっほー☆ちゃんと柏崎先生と一緒に寝てる?」

雪「え…と…その」

龍崎「ちゃんと同じベッドで寝ないとダメよ?紺野さんが寝てる間にビール飲んじゃうかもしれないんだから」

雪「は…はい…わかりました…」

龍崎「こっちはまだ朝早いからまたね☆」

雪「お疲れさまです」

電話が切れた。

雪「機関長でした…」

柏崎「なんですか?」

雪「その…柏崎先生と同じベッドで寝るようにと…」

柏崎「は!?」

雪「いっ、嫌ですよねいきなり私なんかと…」

柏崎「いえ、違います、やっぱりビンタして下さい」

雪「はい?」

柏崎「どうも現実だと思えないので」

雪「そ…そうですか、それじゃ失礼して…」

雪は柏崎の頬にそっと手を触れた。

柏崎「ええと…」

雪「えいっ」

雪の指が柏崎の頬を軽くつまむ。

雪「目がさめましたか?」

柏崎「………はい」

結局その日はふたり、背中合わせでベッドに入った。

が。

雪(柏崎先生の顔を見ながら寝たい…)

雪は柏崎のほうに寝返りを打った。

それを関知した柏崎は、言った。

柏崎「…紺野さんって、オレのことどう思ってるんですか?」

雪「えっ」

いつの間にか一人称が「オレ」になっている柏崎だった。

雪「大きくて…逞しくて…やさしくて…ビンタが好きで…」

柏崎「最後間違ってます」

今度は柏崎が寝返りを打った。

キングサイズのベッドで二人向かい合う。

柏崎「紺野さん、オレが好きなのはビンタじゃなくて…紺野さん本人です」

雪「えっ」

柏崎「諸事情があって今まで言い出せなかったのですが、出張中の無礼講ということで許してください」

諸事情というのは、もちろん某同盟のことだ。

何人たりとも紺野にアプローチしてはいけない。

しかし、この夢心地の状態では同盟の存在などどうでもよかった。

柏崎(当たってくだけろオレ!)

雪「私も…」

柏崎「え」

雪は笑顔で。

雪「私も…柏崎先生が好きです」

かくして、二人は結ばれた。

しかし、出張にコンドームを持ってくるほど柏崎は用意周到でもないし、

告白を受けた初日に肉体関係をもつほど軽い男でもなかった。

しかし、これだけは。

柏崎「…キスしていいですか?」

雪「…はい……」

雪が瞳を閉じると、柏崎は

羽毛が触れるようなかすかなキスを贈った。

かくして、二人は結ばれた。

どんな障壁も越えてみせる。

柏崎は雪の寝顔にそう誓った。