某医療機関での日常

現代医科学恋愛ファンタジーというわけのわからないジャンルの創作文置き場。 小説というカタチを成していないので読むのにいろいろと不親切。たまにR18。 初めての方は「世界観・登場人物紹介」カテゴリを一読の上でお読みください。

動き出す秋

(昼休み 医療機関礼英 第3食堂)

チキンカツ定食のトレイを持った

若くて体格のがっしりした理学療法士

きょろきょろしながら食堂内を歩き回っていた。

叶具(誰が情技の青木さんなんだろう…)

一方、利用者の9割以上が情技室員である第3食堂で

理学療法士の服装は目立っていた。

ロッソ「あ、KINGだ」

プリモ「えっ何?」

ロッソ「あそこにいる理学療法士

ロッソは叶具に向かって大きく手を振ってみた。

見知った顔を見た叶具は、安心したように寄ってきた。

叶具「宮越さんー!」

ロッソ「どしたの、こんなとこ来て」

叶具「情技の青木さんを探しに…」

ロッソ「青木先生ならあっちに座ってるメガネだよー」

叶具「ありがとうございます!」

叶具はロッソに一礼して、青木のいる席に向かった。

ピアノ「ねえ、KINGって何?」

ロッソ「叶具→かなぐ→金具→きんぐ→KING」

プリモ「なるほどww」

離れた席で。

叶具「あのう…、あれ?」

長瀬「あ、KINGだ」

了「やっほーKING」

マカポー「Hey,KING!」

青木「んん、んー!」

青木はミートソースパスタを頬張っていた。

叶具「皆さんこの前体育館で会いましたよね…?」

しかし、その時は各自運動に適した服装だったため、

名札はつけていなかった。

青木「夏休みゲットしたー、ただし3日間」

叶具「あの!あの!」

青木「は、はい?」

叶具「ロックバンドのドラムやらせてください!」

青木「へ?」

叶具「えっ、え?」

あそこのメガネが青木だよ、と言われてここへ来た。

ロックバンドのメンバーを募集していたのは彼のはずだ。

しかし、叶具は情技の人員についてほとんど知らない。

まして「青木」など、情技に限らずどこにでもいる。

叶具は不安になりかけた。

マカポー「ドラムキターーーー!!」

長瀬「おめでとう!おめでとう!」

了「つーか自分で募集しといて忘れンなwww」

青木「あっ、ごめん、来ると思ってなかった」

叶具は盛大に拍子抜けした。

青木「とりあえず座ろうよ」

叶具「ドラムまだ空いてますか?」

青木「空いてるから座ろうよ」

叶具「よっしゃああああああああ!!!!」

募集した本人より志願した叶具のほうが盛り上がっている。

席に座ってからもガッツポーズ。

席順は以下の通り。

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長瀬   青木

マカポー 了  叶具

 

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マカポー「オイ、ツラが見えネェゾ」

叶具「すいません!」

了「いじってやるなよ新人なんだからww」

長瀬「やる気ありそうなのが来てよかったな青木」

青木「オレ大学以来だから腕なまってると思うー…」

マカポー「リーダーがそんナンでどうスンネン」

叶具(マカポー氏はどこの生まれ育ちの人なんだ…!?)

離れた席で。

鈴(話しかけてこない…絶対ドン引きされてる…!)

完(どうやって切りだそうかなあ…)

お互い思案(?)しながら無言で食事を取っていた。

完「あの」

鈴「んっ、んぐっ」

完「すみません、ゆっくり食べてください」

鈴「んっ、は、はい、なんですか?」

完「草餅さんの、次のお休みはいつですか?」

鈴「明日です」

完「えっ」

鈴「え?」

完「あ…いえ、その…僕も明日休みなんです」

鈴「えっ」

これが「奇遇」でないことを知っているのは

離れた席に座っている面々と室長のみである。

長瀬「ところで最終鬼畜中畑先生はいつリア充になんの」

了「鬼畜ってつけんな。うまくいけば今月末には…」

叶具「ぐふっ!」

チキンカツ定食を食べていた叶具がむせた。

叶具(そんな急展開なんですか…!?)

マカポー「青木、リア充爆破songでも作るノカ?」

青木「いあ、とりあえずめんどくさい歌仕上げたい」

長瀬「え?アレで仕上がってるんじゃねえの?」

青木の言う「めんどくさい歌」とは

青木の心象映像に映された歌である。

特に曲名を決めていなかったので、暫定的に

「めんどくさい歌」と題されているが

変更する必要もなさそうな歌詞である。

青木は完に頼んで心象映像のデータを譲り受け、

音声だけを抜き出して同僚と叶具に配ったが…

青木「仕上がってない。2番が無い」

了「アレにどうやって2番つけるんだよ…」

叶具「それなんですけど青木先生」

青木「あい?」

叶具「オレの嫁が続き思いついたって言うんです」

長瀬・了・マカポー「嫁?」

叶具「あ、すいません、つい癖で…彼女が」

長瀬・マカポー「カ、ノ、ジョ?」

了「お前らあからさまに爆破オーラ出すな」

離れた席で。

完(いきなり明日なのか…)

弟に「ふたりで遊びに行け」と提案されたばかりだ。

しかし、明日。

相手には、すでに予定が入っているかもしれない。

完が思案していると、

鈴「あ、あの…明日…空いて…ますか…?」

しようとした質問は、向こうから投げかけられた。

完「はい。特に予定は入っていません」

鈴「そ、そうですか」

完「草餅さんは…?」

鈴「わっ、私は!はい!暇に!しております!」

完「あの、随分気合いを入れて暇にするんですね」

鈴「え!?いえあの、べっ別にそんな、気合いとかはッ」

鈴はただ緊張しているだけなのである。

完「了に聞いたのですが…」

鈴「へ?」

完「情技の女性は「気合いを入れて休む」こともあるそうで…」

鈴「えっ、なんですかソレ」

完「確か…趣味に…全力投球?する、と…」

離れた席で。

ピアノ「へっくし!」

ロッソ「どうしたし」

プリモ「花粉症?」

ピアノ「昨日パソコンの前で寝オチしかかってさー…」

プリモ「冬パラ受かるといいねー」

ロッソ「今から修羅場かー…」

冬パラとは。

冬に行われるコミックパラダイムシフトの略称である。

日本最大級の同人誌即売会に売り手として参加するには

サークル参加者として「当選」しなければならない。

「当選」があるからには、当然「落選」もある。

ピアノ「受かってもいいように新刊出すぞうおお!」

と意気込んで、ピアノは自らを

「同人誌原稿作業の修羅場」に追い込んでいるのである。

こういう人種は休日を「気合いを入れて」過ごす。

しかし、

鈴「あ、私はそういう休み方はしないほうなので…」

鈴は同人誌を読むが、創る側ではなかった。

完「そうなんですか」

鈴「なので、その、普通に空いてます…ので」

完「はい」

鈴「えっとその」

鈴(どこに誘えばいいのかわからない…!)

鈴の行動範囲は、それほど広くなかったのだ。

完「一緒に行ってみたいところがあるのですが」

鈴「えっ」

完「付き合ってもらえませんか?」

鈴「あの…どこへ…」

完「市街地の…ええと…カーニバルビル…?…に」

鈴「え!?」

完「え?」

完は「カーニバルビル」に何があるのかを知らない。

二宮に「情技の女と出かけるならそこへ行け」と

アドバイスを受けただけだった。

完「あの…何かまずいことが…?」

鈴「いっ、いえ、まずくは、まずくはないん…ですが」

鈴(でも、おいしいのは私だけなんじゃ…!!)

離れた席では。

叶具「…っていう歌詞で」

青木「おおー」

了「よくまとまったなあ」

叶具の彼女が考えた「めんどくさい歌:2番」の解説が

終わったところだった。

マカポー「oh…じゃネエダロ」

長瀬「もともとはお前の曲じゃねえか」

青木「作詞協力:KINGの彼女って入れればいいし」

了「相変わらずユルいなそのへんww」

叶具「えっ、ちょっ」

青木「あん?」

叶具「いえ、嫁が思いついたというだけでその」

青木「はい採用」

マカポー「オマエ自分で作るのめんどくさいダケダロw」

青木「いや、大学の時に自分で作った2番はあった」

長瀬「あ?」

青木「けど、心象にすら出てこないほど忘れた」

了「え?」

マカポー「マサカの…完全忘却…か?」

叶具「でも、2番があったという事実だけは覚えているんですか…」

青木「不思議だよねー」

長瀬「不思議なのは、自分のコトなのにまるで他人事みたいな青木だ」

了「…言えてる」

了(兄さんの心象映像抽出が不完全だったのか…?)

青木の完全忘却か、心象映像抽出が不完全か。

どちらもあり得ないことではないように思える。

了はそちらの分野は専門外で、結論は出ない。

青木「曲は完成するんだし別にいいやー」

長瀬「ユルいwww」

叶具「あとは…メンバーですね」

青木「ドラムとベースボーカルでいいやー」

了「おいwwwww」

マカポー「freedomすぎるダロwww」

離れた席で、完は首をかしげていた。

完(まずくはないって、良くもないのかな?)

鈴(何故いきなり私の趣味どストライク…!?)

鈴がうろたえているので、完は付け足した。

完「実は、僕はそこへ行ったことがありません」

鈴「はい!?」

完「情技の女性と出かけるならそこにしろ、と友人に言われて…」

鈴「ああ…そ、そうだったんですか…」

何故かほっと胸をなで下ろす鈴だった。

(昼休み 医療機関礼英 第1食堂)

二宮「あのさあ」

矢野「ん?」

二宮「柏崎に禁酒令出てたの知ってるよな?」

矢野「うん」

柏崎は、ドイツに出張していた。

二宮「あいつがドイツで禁酒できると思うか?」

矢野「思わない」

二宮「で、当然監視がついたわけだ」

矢野「当然飲まないヤツがついたんだよな?」

(ドイツ 医療機関礼英 ドイツ支部 ロビー)

「……あの、柏崎先生」

聞き覚えのある女性の声に振り向いた柏崎は、

声を失った。

紺野「柏崎先生がお酒を飲まないように、お側で見守らせて頂きます…」